日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28PO1] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

18:15 〜 19:30

[MIS21-P02] 放射性炭素同位体比と炭素・窒素安定同位体比を利用した海藻の生育環境履歴の推定

*佐藤 菜央美1福田 秀樹1宮入 陽介1横山 祐典1永田 俊1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海藻, 三陸, 海流, 放射性炭素同位体比, 安定同位体比

親潮系と黒潮系の海流が複雑に交わる三陸沿岸域では、どの海流が流入するのかにより内湾の環境(水温、光、栄養塩類など)が大きく変化し、このことが、湾内の生物の成長や相互作用に強い影響を及ぼしていると考えられる。しかし、複雑に変化する異なる海流の流入状況と、それに対する湾内の生物の生理的な応答の関係にはまだ不明な点が多く残されている。本研究では、三陸沿岸域に広く分布する底生一次生産者であり、また重要な養殖生物でもあるワカメ(Undaria pinnatifida)を研究対象とし、藻体の放射性炭素同位体比の情報から、外洋水の流入状況(生育環境履歴)を推定する新しい手法の検討を試みた。本研究の基本的なアイディアは、溶存無機炭素の放射性同位体比が、深層の古い水が湧き上がる親潮系の海水で低く、黒潮系の海水で高いことを利用し、藻体の放射性炭素同位体比(光合成による炭素固定を介して、溶存無機炭素の同位体比を反映すると考えられる)の変動から、湾内への起源の異なる海水の流入状況を推定するという点にある。同時に、炭素・窒素安定同位体比を併せて測定することで、環境の変化と生物の応答の関係についての情報を得ることを試みた。
岩手県大槌湾において、2012年10月から2013年3月の期間に栽培したワカメの藻体を試料として用いた。基部から頂部にかけての各側葉の先端部を酸処理後、グラファイトに変換し、加速器質量分析計を用いた放射性炭素の測定に供した。また、安定同位体比質量分析計を用い、炭素・窒素安定同位体を測定した。ワカメの側葉は、藻体基部の葉茎移行部に存在する生長点を基に新生される。古い側葉を上部に押し上げながら新しい側葉を形成する成長様式から、各々の側葉は成長に応じた時間経過を示すと考えられる。本発表では、湾央および河口域の定点で収穫された各1個体を解析した結果を報告する。
湾央で栽培した藻体の各側葉のΔ14Cは、0~40‰の範囲で変動し、上部と下部の側葉で高く(20‰~40‰)、中央部で低い値(0‰)を示した。このことから、本個体においては、中央部の側葉が形成された時期に、親潮系の海水の流入の影響を受けたことが示唆された。安定同位体比(δ13Cとδ15N)も、上部と下部の側葉で高く(δ13C = -14‰、δ15N = 3.5‰)、中央部で低い(δ13C = -20‰、δ15N = -1‰)凹型のパターンを示したが、最小値を示す位置は、放射性炭素同位体比に比べて、やや下部にみられた。δ13Cとδ15Nの間には有意な正の相関がみられたことから、安定同位体比の変動は、藻類の生育状態の変化に伴う同位体分別の変化を反映している可能性があると推察した。以上の結果は、親潮水の流入から遅れて、海藻の生育状態に変化が生じたことを示唆している。一方、河口付近で栽培した個体の同位体比の変動は湾央のものとは大きく異なった。Δ14Cは -20‰~ +60‰の範囲で大きく変動し、藻体の上部から下部にかけての一定の変動パターンは見いだせなかった。また、炭素・窒素安定同位体比についても顕著な変動パターンはみられなかった。河口付近では、河川水流入の影響を受けて、藻体の同位体比が複雑な変動を示した可能性がある。