日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28PO1] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

18:15 〜 19:30

[MIS21-P14] 福島県浪江町の小規模森林域における放射性セシウムの分布

*緒方 裕子1黒島 碩人1大河内 博1床次 眞司2反町 篤行3細田 正洋4五十嵐 康人5片岡 淳1大須賀 慎二6 (1.早稲田大学、2.弘前大学、3.福島県立医科大学、4.弘前大学大学院、5.気象研究所、6.浜松ホトニクス株式会社)

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により、環境中に大量の放射性物質が放出された。福島県は面積の約70 %が森林で覆われており、輸送されてきた放射能プルームが通過した際に、森林樹冠などに放射性物質が捕捉された可能性が高い。新たな人工放射性物質の放出がない現在では、森林が放射性物質の二次放出源となり、森林から系外への流出が懸念されている。従って、比較的半減期の長い放射性セシウム(Cs)の森林域における動態や流出挙動を把握することは極めて重要である。
我々は2012年6月から帰宅困難区域にある福島県浪江町の小規模森林域において、落葉広葉樹林と常緑針葉樹林(スギとマツが主体)の2箇所でサンプリングを行っている。広葉樹林は主要道路から林道を約200 m、針葉樹林はさらに500 m奥に入った地点にあり、標高440-540 mである。採取地点の横を林道沿いに小川が流れている。サンプリングは降雪時期(1-3月)を除いて毎月行った。試料は林外雨、林内雨、生葉、落葉、土壌、小川の水、川砂であり、各試料の放射性Cs濃度を測定し、森林内分布を調べた。
2012年11月に各採取地点で空間線量率を測定した結果、広葉樹林(5.64 μSv/h)の方が針葉樹林(4.11 μSv/h)よりも高かった。また、生葉、落葉、表層土壌の放射性Cs濃度は、いずれも針葉樹林よりも広葉樹林で高かったが、土壌に対する濃度比は針葉樹の落葉層が広葉樹よりも高かった。これは、広葉樹林が林縁部に近く、エッジ効果により林縁部で効果的に放射性物質が捕捉されたためだと考えられる。しかし、広葉樹林の生葉は事故当時には落葉し展開していなかったことから、比較的高濃度の放射性Csが広葉樹の生葉から検出された要因として、放射性物質の再飛散による付着、枝からの転流、経根吸収などが考えられる。
そこで、2013年4月と12月にスクレーパープレートを用いて深度ごとに土壌の放射線Cs濃度を測定した。深さ5 cmまでは0.5 cmごとに、5-10 cmは1 cmごとに広葉樹林と針葉樹林で土壌を採取した。4月の結果では、広葉樹林、針葉樹林ともに表層で最も濃度が高く、下部にいくほど濃度が低下した。一方12月の結果では、広葉樹林は4月と同様の傾向を示したが、針葉樹林では1-1.5 cmで最も濃度が高く、4月と比較して下部に濃度のピークが移動していた。従って、広葉樹林では放射性Csが表層土譲に存在したままで、土壌下部への移行は見られなかったが、針葉樹林では放射性Csが土壌深部へ浸透したことが示唆された。このような違いは、樹種や土壌の種類による影響も考えられる。広葉樹林では表層5 cmに根の存在が確認されたことから、経根吸収の可能性が考えられる。一方、針葉樹林の主要樹種であるスギやマツは深根性であることから、表層土壌に存在する放射性Csの経根吸収の影響は少ないと考えられる。
樹種による経根吸収の影響を明らかにするため、広葉樹林の生葉と根、針葉樹林の生葉(スギ)をイメージングプレートを用いて調べた。その結果、広葉樹林の葉および根はその輪郭がはっきり分かる程度に、全体的に放射性物質が分布していた。しかし、針葉樹林では葉の形はまったく見えず、黒い斑点が少し見える程度であった。従って、広葉樹では経根吸収や転流により葉まで放射性Csが分布し、針葉樹は葉表面へ放射性物質が付着して存在している可能性が示唆された。
以上の結果から、我々が調査した小規模森林域における放射性Csは以下のような動態を示すと考えられる。広葉樹林では土壌の表層近くに根が張っており、表層土壌から放射性Csを吸収し、葉などへ葉脈を通って移動し、落葉により再び林床に戻るというサイクルで森林内を循環している可能性がある。一方、針葉樹林では葉に付着した放射性Csが落葉により徐々に林床に落下するが、針葉樹は深根性のため経根吸収や転流の影響は少なく、降雨などにより徐々に表層土壌の放射性Csが土壌深部へ移行していると考えられる。これらの動態を明らかにするには、より詳細な調査が必要である。
発表時には、森林内を流れる小川で粒径別に採取した川砂の放射性Cs濃度を測定した結果などから、小川を介した放射性Csの流出機構についても議論する予定である。