14:30 〜 14:45
[MIS23-16] 沖縄本島における津波堆積物調査
キーワード:津波, 津波堆積物, 有孔虫
南部琉球弧では、津波石が打ち上げられた年代から、約200~500年に一度の頻度で巨大津波が襲来してきたことが明らかになっている(河名・中田、1994、Araoka et al., 2013)。最近の巨大津波である1771年八重山大津波(明和の大津波)については津波の数値計算から琉球海溝で発生したM8クラスの海溝型巨大地震であった可能性が指摘されている(Nakamura, 2009)。しかし、中部琉球弧では津波石が確認されておらず、さらに古文書にも巨大津波の記録が残されていないため、この地域を過去に襲った大津波の履歴がほとんど判明していない。そこで中部琉球海溝での大津波履歴を解明するため、沖縄本島にて津波堆積物調査を実施した。沖縄県土木建築部海岸防災課と共同で沖縄本島内にて2013年3月4日~15日にボーリング調査を実施した。調査地点は喜如嘉(大宜味村)、汀間(名護市)、屋嘉(金武町)、屋宜(中城村)、大山(宜野湾市)である。ボーリングコアの目視観察から、汀間と屋宜のコアには津波堆積物の可能性がある砂層が含まれていた。そこで、これらの地点でのボーリングコアについて、津波堆積物の可能性がある砂層部分および比較対象としてその上下層を分析した。汀間-1(標高4.5m、海岸から0.4km)は大浦湾の湾奥の後背湿地に位置する。汀間-1では地表からの深さ1.25mから1.85mの間で5サンプルを採取し分析した。屋宜1~3(標高2.8~3.1m、海岸から0.1~0.2km)は中城湾沿いの海岸低地に位置する。サンプルは、屋宜-1では深さ0.80~4.15mまで7サンプル、屋宜-2では深さ1.35~2.05mまで4サンプル、屋宜-3では深さ1.95mで1サンプルを採取しそれぞれ分析した。さらにそれぞれの調査地点付近の海岸で、現世サンプルを採取した。サンプルの処理方法は、採取試料を約60℃で完全乾燥後、過酸化水素水を10倍希釈して投入した。さらに試料を63μmの篩にかけ、流水の力のみで洗浄した。その後、再び約60℃で完全乾燥させ、篩を用いて>2.00㎜、2.00~1.00㎜、1.00~0.5㎜、0.5~0.25㎜、0.25㎜~0.125㎜、0.125~63μmの粒度に分けた。有孔虫分析方法は、採取サンプルから1.00mm~0.5mmの粒度を抽出し、有孔虫を150個体以上になるように拾い出した。その後、有孔虫を優占種とその他の種に分類した。さらに、現世サンプルの有孔虫組成と比較し、堆積物の起源を推定した。分析の結果、まず、汀間の深度1.55m,1.65mでAnomalinellaがそれぞれ3個体、深度1.65mでCalcarina Mayoriが2個体検出された。これらの種はreefの外側に生息することから、汀間の深度1.55m,1.65mの堆積物はreefよりも外側から運搬されたと考えた。屋宜-1の深度3.75m,3.85mでAnomalinellaがそれぞれ2個体検出された。屋宜-1の深度3.85mでDendritinaが4個体、Operculinaが3個体検出された。これらの種はreefの外側に生息する。つまり屋宜1の深度3.75m,3.85mの堆積物はreefよりも外側から運搬されたと考えた。屋宜2の深度1.85mにおいてDendritinaが4個体Operculinaが4個体検出された。また、屋宜2の深度2.05mにおいてDendritinaが2個体検出された。これらの種はreefの外側に生息する。つまり屋宜2の深度1.85m,2.05mの堆積物はreefよりも外側から運搬されたと考えられる。このように、汀間・屋宜のボーリングコアからはreef外に起源をもつ種が含まれていることが判明した。ボーリングサイトまで堆積物が運搬される原因として波浪・高潮・津波が考えられる。しかしreef外の種が波浪や高潮でreefを経由して採取地点に到達することは考えにくいため、これらの種は津波でボーリングサイトまで運ばれた可能性が高いと考えられる。津波堆積物であると推定した層に含まれるサンゴ片のC14年代は、汀間-1の深さ1.65mで1180±110年、屋宜-1の深さ3.95mでBC 3370±60年、屋宜-2の深さ1.35mでBC 3090±180年であった。これらの結果は、イベント発生時期が汀間では約800年前以降、屋宜では約5000年前以降であることを示している。汀間のイベントが約800年前以降という結果は、汀間の反対側である沖縄本島北西側で行われた調査結果、つまり津波に起因するとみられる堆積層が約600~800年間隔で含まれ、さらに最近の時期が約700年前であったこと(原口・他、2012)、と調和的である。