日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23_2PM1] 津波堆積物

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 415 (4F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)、座長:宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)

15:15 〜 15:30

[MIS23-19] ロシア沿海州の津波堆積物調査にもとづく日本海の津波発生履歴の解明

*西村 裕一1ラジガエバ ナディア2ガンゼイ ラリーサ2グレベニコワ タティアナ2カイストレンコ ビクター2ゴルブノフ アレクセイ2中村 有吾1 (1.北海道大学、2.ロシア科学アカデミー極東支部,ロシア)

キーワード:津波堆積物, 沿海州, 日本海, 古津波, 歴史津波

1940年積丹沖地震,1983年日本海中部地震,1993年北海道南西沖地震等,日本海東縁部では近年,津波被害を伴う地震が発生している.一方,北海道や東北地方北部では日本海の地震や津波を記した古文書は少なく,津波や地震の発生履歴はよくわかっていない.このような状況下,日本海沿岸には原子力施設があり,津波リスクを科学的根拠に基づいて評価する必要性が指摘されている. そこで重要なのは津波堆積物である.しかし,北海道日本海側では上記の歴史地震に伴う津波の痕跡がほとんど残されていないことからわかるように,古津波の痕跡調査には適さない場所が多い.そこで我々は,日本海を挟んで対岸にあるロシア沿海州で,2010年から2013年,北海道大学とロシア科学アカデミー極東支部との共同研究として津波堆積物調査を実施した.調査範囲は,北はPlastun Bay(北緯44度50分:北海道遠別町とほぼ同緯度)から南はKit Bay (北緯43度02分:北海道泊村とほぼ同緯度)である.ここでは調査結果の一部を紹介する. ロシア沿海州は日本海東縁で発生する津波の痕跡調査に適している.沿岸には湿地が多く存在し,しかも人工改変はほとんど受けていない.大きな高潮の 発生頻度は低く,津波を引き起こす周辺海域の地震活動はない.よって,内陸数100mまでシート状に分布し構成物に海水生の珪藻が含まれている砂層は,基本的に日本海東縁部で起きた地震による津波の堆積物候補と考えるのが妥当である. 実際,沿海州では,1900年代の津波で繰り返し被害を受けており,検潮記録や波高の調査報告も残されている.1900年代の津波は,沿海州の広い範囲で3mから5mの高さであった(例えば,羽鳥, 1991; Poliakova, 1988; Soloviev and Go, 1974).これらの近年の津波の痕跡は,Valentin Bay や Kit Bay, Langou I Bayにある泥炭中に,地表から10cmほどの深さにシート状に分布する砂層として残されていた. より古い津波の痕跡と考えられる砂層も複数地点で確認できた.砂層を挟む泥炭の炭素同位体年代に基づけば,350年ほど前の砂層が Kitovoe Rebro Bayで,600年ほど前の砂層が Langou I Bay とDukhovskie Lake 周辺で,800年ほど前と2000年ほど前の砂層が Kit Bay と Langou I Bayで,それぞれ確認できた.Kit Bay の露頭やピットでは,800年ほど前の砂層の下,数cmの土壌を挟んで B-Tm火山灰(10世紀)が堆積している.この火山灰がB-Tmであることは火山ガラスの化学組成から確認した.  今回の一連の調査で発見された砂層の多くが津波堆積物であれば,元となる津波は日本海東縁部の海域を震源とする大地震で起きたものである可能性が高い.分布限界まで追跡されている砂層はまだ少ないが,いずれの砂層も標高3-4m以上で浸水距離が数100m以上であることから,日本海沿岸では1900年代に大きな被害をもたらした津波を超える規模のイベントが繰り返し起きていたと考えても不自然ではない.今後はさらに調査を進め,こうした津波堆積物候補の分布や年代をより正確に決定し,日本海北部の津波発生履歴を明らかにしていきたい.