日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23_2PO1] 津波堆積物

2014年5月2日(金) 16:15 〜 17:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*後藤 和久(東北大学災害科学国際研究所)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、西村 裕一(北海道大学大学院理学研究院)

16:15 〜 17:30

[MIS23-P06] 仙台湾沿岸における津波の浸水限界と津波砂層の分布限界との関係性の解明

*阿部 朋弥1後藤 和久2菅原 大助2 (1.名古屋大学 地理学教室、2.東北大学 災害科学国際研究所)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震津波, 仙台湾沿岸, 浸水限界, 津波砂層の分布限界

津波の浸水限界と津波砂層の分布限界との関係性を明らかにすることは,古津波の浸水範囲を津波砂層の分布範囲から推定する上で重要である.2011年東北地方太平洋沖地震の発生以前は,津波砂層は浸水限界の90%以上まで分布するため(MacInnes et al., 2009),津波砂層の分布範囲から古津波の浸水範囲を推定することには,大きな問題は無いとされてきた(Tsunami Pilot Study Working Group, 2006).しかし,2011年東北地方太平洋沖地震の発生直後に仙台湾沿岸で行われた堆積物調査から,浸水距離が2.5~3 kmを超えると,津波砂層の分布限界は浸水限界より0.6~2.0 km海側となり,津波砂層は浸水距離の57~83%までしか分布しないことが指摘された(Goto et al., 2011; Abe et al., 2012; 宍倉ほか,2012).しかし,浸水限界と津波砂層の分布限界との差が生まれる要因について,物理的な説明はほとんど行われていない.よって,本研究では,両者の差が生まれる要因を明らかにすることを目的とする.
仙台湾沿岸において,海岸線から浸水限界まで長さ0.60~5.07 kmの15本の調査測線を設定した.浸水限界は,津波痕跡の現地調査から決定し,津波痕跡が失われていたものは,東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(TETJSG)(Mori et al., 2012)のデータを用いた.津波砂層の分布限界は,測線上において数10~100 m程度の間隔を置いて計366地点で行った堆積物のピット観察結果から決定した.また,各測線における浸水限界と各掘削地点の標高は,GPS測量機器を用いた地形測量,もしくは,国土地理院が提供している津波発生直後の航空レーザー測量結果(5mDEM)の抽出により求めた.各掘削地点の津波砂層の粒度分布を,沈降管法により求めた.TETJSGの浸水高から5 mDEMの標高値を引くことで,浸水深を推定し,その分布をNatural neighborによって空間補間することで,浸水深分布図を作成し,各掘削地点の浸水深を抽出した.
浸水限界と津波砂層の分布限界との関係は,次のA~Dの4つの地形のタイプによって異なった特徴が見られた.仙台平野北部~中部のA) 奥行きが広い平野の6測線(浸水距離:3.66~5.07 km)では,津波砂層の分布限界の海岸線からの距離と標高は,浸水限界の55~74%と5~36%(1.03~2.30 km,1.3~2.0 mの差)であった.仙台平野南部のB) 奥行きが狭い平野の3測線(浸水距離:0.60~1.96 km)では,津波砂層の分布限界の海岸線からの距離と標高は,浸水限界の97~98%と30~54%(0.01~0.16 kmと,3.7~4.9 mの差)であった.七ヶ浜半島および仙台平野南部のC) 谷底平野の4測線(浸水距離:1.41~2.23 km)では,津波砂層の分布限界の海岸線からの距離と標高は,浸水限界の92~99%と55~89%(0.02~0.18 km,0.9~3.5 mの差)であった.相馬海岸~常磐海岸のD) ラグーン低地・干拓地の2測線(浸水距離:3.85~4.43 km)では,津波砂層の分布限界の海岸線からの距離と標高は,浸水限界の94%と30~45%(0.16~0.22 km,0.7~1.8 mの差)であった.
ここでは,津波砂層の分布限界(2.31~2.99 km内陸)と浸水限界(3.66~5.07 km内陸)との間に1.03~2.30 kmの差が見られた仙台平野北部~中部の奥行きが広い平野の6測線(Aタイプ)について,考察を行う.まず,津波砂層の分布限界での標高は,0.1~1.1 mであり,一定の標高で砂層が途切れるわけではない.加えて,津波砂層の分布限界での粒度は,細粒砂~中粒砂(中央粒径値:1.6~3.1 phi)であり,一定の粒度で砂層が途切れるわけではない.また,津波砂層の分布限界での推定浸水深と計算最大流速は0.5~1.4 mと1.3~2.8 m/s(堀川ほか,2012)であり,津波砂層の分布限界における津波の流体力は細粒砂~中粒砂をより内陸まで運搬可能であったと推測される.以上のことから,津波砂層の分布限界において,標高や砂の粒度に限界値があるのではないこと,および津波の流体力としてはより内陸まで津波砂を運搬可能であったと考えられる.そのため,浸水限界と津波砂層の分布限界との間に1.03~2.30 kmの差が生まれたのは,仙台平野における2011年東北地方太平洋沖地震による津波砂の主な供給源と考えられている海浜砂~砂丘砂(Szczucinski et al., 2012)の供給が,海岸線から2.31~2.99 kmを超えると途切れてしまうことが要因であると考えられる.各測線の海岸部には,海浜砂~砂丘砂が十分にあり,津波発生直後の現地調査においても,それらの全てが消失していたわけではなかったので,供給源での砂の供給可能量に上限値があったのではないと思われる.そのため,2011年東北地方太平洋沖地震における仙台湾沿岸での津波特性が供給源での海浜砂~砂丘砂の供給プロセスを支配したことによって,内陸での砂の供給が途切れたと考えられる.津波の数値解析,観測データ・ビデオ映像の解析から,この仮説を確かめたいと思っている.