16:15 〜 17:30
[MIS23-P07] 三陸海岸宮古市沼の浜で発見された歴史津波堆積物
キーワード:津波堆積物, 三陸海岸
岩手県宮古市田老地区沼の浜で,津波履歴解明を目的に津波堆積物調査を行った.本調査地は浜堤を介した低湿地帯で,2011年東北地方太平沖地震の津波遡上高は,17〜30 mであった(都司ほか,2011,地震研彙報).低地掘削で得られた深度長約3 mのハンディジオスライサー試料を解析した結果,15世紀以降の津波堆積物が6層検出された. 210Pb及び137Csによる堆積年代推定結果から,地表から4層目までのイベント層は,上部より2011年東北地方太平洋沖地震津波,1960年チリ地震津波,1933年昭和三陸地震津波,1896年明治三陸地震津波に相当すると推察される.15世紀以降にこの地域に来襲したこの他の歴史的な近地津波としては,1793年宮城県沖地震,1763年及び1677年青森県沖地震,1677年延宝房総沖地震,1611年慶長三陸地震があり,主な遠地津波は1700年カスケード地震津波がある.
2011年東北地方太平洋沖地震後には,仙台平野を中心に津波堆積物に関する多くの調査が行われている(Goto et al., 2011, Marine Geology; 宍倉ほか,2012, 活断層・古地震研究報告).しかし,岩手県北部から青森県に至る沿岸部については,過去の津波履歴復元を目的とした津波堆積物調査の報告例が少ない上に,検出された津波痕跡の堆積年代は数千年前と古いものが多い.有史時代の津波痕跡が地質試料に保存されていない原因として考えられるのは,三陸沿岸ではリアス式海岸が発達していて沖積層が保存されにくい場所であることや,人工的な影響によって沖積層が削られていることにある.しかしながら,本調査地は標高約4 mの浜堤で海と隔てられており,平常時は泥炭層が堆積する場所である.本研究のように,三陸沿岸において近年の歴史津波が地質学的証拠として時間的連続性をもって検出された例は珍しい.
本研究では,層相記載・粒度分析・微化石分析による津波堆積物の認定を行ない,津波堆積物の堆積年代推定のために,試料中の植物片や種子の14C年代(AMS)測定を行なった.さらに,表層部の津波堆積物の堆積年代推定のために,土壌試料中の 210Pbと137Csの残存濃度の値を用いた.堆積物中に残存する210Pb(半減期22.3年)濃度測定値により,過去100年程度の堆積速度を見積もることができ,また137Cs残存濃度により,大気圏核実験の始まった1954年以前とそれ以後に堆積したものを区別することが可能である.
イベント層は,数cmから数十cmの層厚を持つ砂礫層として泥炭層中に挟在し,海浜由来の砂礫や付近の地質岩体由来の岩屑性粒子で構成されている.また,下部泥層との明瞭な侵食面,級化・逆級化構造の繰り返し構造,ラミナ構造,ラミナ層に挟在する偽礫などの津波堆積物に特徴的な構造が認められた.イベント層は,海側から内陸側に向かう調査側線上で追跡でき,調査地内で広がりをもって分布していることもわかった.さらに,イベント層と浮遊性海生ナノプランクトンの高産出層がよい相関を成すことは,イベント層を構成する粒子が海水によって陸側へ運搬されたことを示す.
年代測定の結果,14C年代測定結果は,試料深度3 m付近が15世紀頃に堆積したことを示し,さらに 210Pb残存濃度から得られた減衰曲線は,表層から4つ目の砂層までが,ここ約100年間で堆積したことを示した.さらに,表層から2つ目の砂層以浅で137Csが検出されたことより,2つ目の砂層は1960年チリ地震津波堆積物の可能性があることが示唆された.
謝辞
調査の実施にあたり,平川一臣氏,Javed N. Malik氏による多大な御助言と,村岸純・鳴橋竜太郎・楠本聡・瀧川朗・山市剛・Ravi K. Prabhat,各氏による御協力を頂きました.記して感謝致します.
2011年東北地方太平洋沖地震後には,仙台平野を中心に津波堆積物に関する多くの調査が行われている(Goto et al., 2011, Marine Geology; 宍倉ほか,2012, 活断層・古地震研究報告).しかし,岩手県北部から青森県に至る沿岸部については,過去の津波履歴復元を目的とした津波堆積物調査の報告例が少ない上に,検出された津波痕跡の堆積年代は数千年前と古いものが多い.有史時代の津波痕跡が地質試料に保存されていない原因として考えられるのは,三陸沿岸ではリアス式海岸が発達していて沖積層が保存されにくい場所であることや,人工的な影響によって沖積層が削られていることにある.しかしながら,本調査地は標高約4 mの浜堤で海と隔てられており,平常時は泥炭層が堆積する場所である.本研究のように,三陸沿岸において近年の歴史津波が地質学的証拠として時間的連続性をもって検出された例は珍しい.
本研究では,層相記載・粒度分析・微化石分析による津波堆積物の認定を行ない,津波堆積物の堆積年代推定のために,試料中の植物片や種子の14C年代(AMS)測定を行なった.さらに,表層部の津波堆積物の堆積年代推定のために,土壌試料中の 210Pbと137Csの残存濃度の値を用いた.堆積物中に残存する210Pb(半減期22.3年)濃度測定値により,過去100年程度の堆積速度を見積もることができ,また137Cs残存濃度により,大気圏核実験の始まった1954年以前とそれ以後に堆積したものを区別することが可能である.
イベント層は,数cmから数十cmの層厚を持つ砂礫層として泥炭層中に挟在し,海浜由来の砂礫や付近の地質岩体由来の岩屑性粒子で構成されている.また,下部泥層との明瞭な侵食面,級化・逆級化構造の繰り返し構造,ラミナ構造,ラミナ層に挟在する偽礫などの津波堆積物に特徴的な構造が認められた.イベント層は,海側から内陸側に向かう調査側線上で追跡でき,調査地内で広がりをもって分布していることもわかった.さらに,イベント層と浮遊性海生ナノプランクトンの高産出層がよい相関を成すことは,イベント層を構成する粒子が海水によって陸側へ運搬されたことを示す.
年代測定の結果,14C年代測定結果は,試料深度3 m付近が15世紀頃に堆積したことを示し,さらに 210Pb残存濃度から得られた減衰曲線は,表層から4つ目の砂層までが,ここ約100年間で堆積したことを示した.さらに,表層から2つ目の砂層以浅で137Csが検出されたことより,2つ目の砂層は1960年チリ地震津波堆積物の可能性があることが示唆された.
謝辞
調査の実施にあたり,平川一臣氏,Javed N. Malik氏による多大な御助言と,村岸純・鳴橋竜太郎・楠本聡・瀧川朗・山市剛・Ravi K. Prabhat,各氏による御協力を頂きました.記して感謝致します.