15:45 〜 16:00
[MIS23-P08_PG] 秋田県沿岸部における古津波痕跡調査
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:津波堆積物, 古津波, 日本海東縁, 秋田県
国や全国の地方自治体では,2011年東北地方太平洋沖地震の発生を踏まえて地震被害想定の見直しを進めており,秋田県でも平成24年度から「秋田県地震被害想定調査」が実施されている.その中では,日本海東縁部の海域で発生する地震について,複数の震源領域が破壊する「連動地震」の検討がなされた.秋田県沖に関しては,1983年日本海中部地震が発生し,県内だけでも79人が津波で犠牲になった.しかしながらそれ以前の津波に関する情報はあまり知られておらず,また日本海東縁部において過去に連動地震が発生していたという証拠も得られていない.そこで,日本海沿岸の古津波に関する物的証拠を収集し,将来の地震被害予測に資する情報を整備することを目的として,秋田県沿岸域における古地震学的研究を開始した.本講演では,秋田県沿岸域における津波堆積物調査について現時点で得られている知見について議論したい.
古津波の痕跡,すなわち津波堆積物を使って海溝型巨大地震の再来間隔を推定し,その発生時期や影響範囲および被害に関する将来予測を試みる研究は国内外で数多くなされている .国内において津波堆積物は,千島海溝沿岸域,日本海溝沿岸域,相模トラフ沿岸域,駿河~南海トラフ沿岸域などから報告されているが,我が国における研究例のほとんどが太平洋側のもので,日本海側からの報告は箕浦ほか(1987など)や平川ほか(2012)などわずかである.また,秋田県沿岸からの情報は皆無といえる.
調査地域は,秋田県沿岸部を北部(八峰町),中部(男鹿市および潟上市)および南部(にかほ市)と3地域に分けて選定した.秋田県における人口集中地域である秋田市,能代市および由利本荘市は,大規模な河川による堆積作用の影響および高い砂丘の存在から,今回の調査で津波堆積物を識別できる可能性が低いと判断し,調査地点を設定していない.調査地点の選定にあたっては以下の①~④の項目を基準とし,空中写真,地形図等で調査地点を抽出した後,現地確認を行い,各調査地点で最も条件が良いと判断された場所で掘削調査を実施した.①文献調査で過去の津波による浸水が推定される場所およびその周辺,②陸成層(泥炭や古土壌)が堆積し保存されている可能性の高い場所(閉塞された低平地),③河川等の水流による定常的な堆積作用の影響を取り除ける場所,④人工改変の影響が少ない場所である.前述の視点から選定された調査地点において,コア採取部の径が3cm程度のハンドコアラーや同じく5cm程度の打ち込み式のサンプラー等を使用し,地表から2~3mの土壌試料を採取した.採取した堆積物を観察し,津波堆積物の可能性がある砂層等を識別した.その結果,津波堆積物が保存されている可能性があると判断した沖積低地においてボーリング調査を実施した.
北部地域と南部地域で採取されたボーリングコア試料からは,沖積低地に堆積したシルトや泥炭を主体とした細粒堆積物中に,砂を主体とした粗粒堆積物が数枚挟まれることがわかった.細粒堆積物中に挟まれる粗粒堆積物は,基底面が侵食面を呈すること,内部に斜交層理等の堆積構造が見られることなどから,ある程度強い水流を伴ったイベント堆積物と解釈される.それらイベント堆積物は,調査地点の周辺に大規模な河川が存在しないことから,洪水の可能性は低いと考えられる.また,海岸線からもある程度距離が離れていることから,現時点では津波堆積物の可能性が高いと考える.
今後,イベント堆積物の広範囲への分布を明らかにし,広域での対比を可能にすること,そしてイベント堆積物の由来を明らかにすることを目的に,追加調査や試料の分析等を進め,歴史地震津波との対応や当地域における津波履歴等についての詳細を明らかにしていきたい.
本研究は,秋田県による「秋田県地震被害想定調査」の成果,および秋田県潟上市から秋田大学が受託した「潟上市における地域防災・減災に関する研究」の予算を使用させていただいた.関係各位に対し記して感謝の意を表します.
古津波の痕跡,すなわち津波堆積物を使って海溝型巨大地震の再来間隔を推定し,その発生時期や影響範囲および被害に関する将来予測を試みる研究は国内外で数多くなされている .国内において津波堆積物は,千島海溝沿岸域,日本海溝沿岸域,相模トラフ沿岸域,駿河~南海トラフ沿岸域などから報告されているが,我が国における研究例のほとんどが太平洋側のもので,日本海側からの報告は箕浦ほか(1987など)や平川ほか(2012)などわずかである.また,秋田県沿岸からの情報は皆無といえる.
調査地域は,秋田県沿岸部を北部(八峰町),中部(男鹿市および潟上市)および南部(にかほ市)と3地域に分けて選定した.秋田県における人口集中地域である秋田市,能代市および由利本荘市は,大規模な河川による堆積作用の影響および高い砂丘の存在から,今回の調査で津波堆積物を識別できる可能性が低いと判断し,調査地点を設定していない.調査地点の選定にあたっては以下の①~④の項目を基準とし,空中写真,地形図等で調査地点を抽出した後,現地確認を行い,各調査地点で最も条件が良いと判断された場所で掘削調査を実施した.①文献調査で過去の津波による浸水が推定される場所およびその周辺,②陸成層(泥炭や古土壌)が堆積し保存されている可能性の高い場所(閉塞された低平地),③河川等の水流による定常的な堆積作用の影響を取り除ける場所,④人工改変の影響が少ない場所である.前述の視点から選定された調査地点において,コア採取部の径が3cm程度のハンドコアラーや同じく5cm程度の打ち込み式のサンプラー等を使用し,地表から2~3mの土壌試料を採取した.採取した堆積物を観察し,津波堆積物の可能性がある砂層等を識別した.その結果,津波堆積物が保存されている可能性があると判断した沖積低地においてボーリング調査を実施した.
北部地域と南部地域で採取されたボーリングコア試料からは,沖積低地に堆積したシルトや泥炭を主体とした細粒堆積物中に,砂を主体とした粗粒堆積物が数枚挟まれることがわかった.細粒堆積物中に挟まれる粗粒堆積物は,基底面が侵食面を呈すること,内部に斜交層理等の堆積構造が見られることなどから,ある程度強い水流を伴ったイベント堆積物と解釈される.それらイベント堆積物は,調査地点の周辺に大規模な河川が存在しないことから,洪水の可能性は低いと考えられる.また,海岸線からもある程度距離が離れていることから,現時点では津波堆積物の可能性が高いと考える.
今後,イベント堆積物の広範囲への分布を明らかにし,広域での対比を可能にすること,そしてイベント堆積物の由来を明らかにすることを目的に,追加調査や試料の分析等を進め,歴史地震津波との対応や当地域における津波履歴等についての詳細を明らかにしていきたい.
本研究は,秋田県による「秋田県地震被害想定調査」の成果,および秋田県潟上市から秋田大学が受託した「潟上市における地域防災・減災に関する研究」の予算を使用させていただいた.関係各位に対し記して感謝の意を表します.