15:45 〜 16:00
[MIS23-P09_PG] 珪藻化石群集から推定された徳島県田井ノ浜における過去4000年間の古沿岸環境変化と地殻変動
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:南海トラフ, 津波堆積物, 地殻変動, 古沿岸環境, 珪藻
南海トラフ沿いの地域で発生する南海地震と東海地震については,豊富に残されている歴史記録が調べられ,その再来間隔が求められている(寒川2008)。また,近年はそれら地震に伴う津波に関する史料記録及び津波堆積物の研究が増加している(例えば藤野ほか2008)。一方,各地震に伴う地殻変動は地形や隆起生物遺骸群集から推定されているものの,その報告は限られている(前杢1988,宍倉ほか2008)。
徳島県由岐町には,過去の南海トラフ起源の地震による津波の被害について書かれた資料や石碑が残されている。歴史時代に発生した古地震や古津波の履歴及び規模を詳細に明らかにするためには,こうした歴史記録と地質記録を合わせて検討する必要がある。さらに,先史時代の記録は地質記録を検討する以外に情報を得る手段はなく,より長期的な地震履歴を明らかにするためにも地質記録を検討することは重要である。本研究では,由岐町に隣接する美波町田井ノ浜で掘削された深度700 cmのボーリングコアの特に深度500 cmまでを対象として分析を行い,産出した珪藻化石群集の変化を明らかにすることから古沿岸環境の変遷及び地震性地殻変動を復元することを目的とした。
コア掘削地点は海岸から200mほど内陸に位置する。現在は休耕地であるが,かつては海岸側が砂州により閉ざされることで形成された低湿地であったと推定される。掘削されたコアは,表層~深度50 cmまでが耕作土層であるが,それより下位の層準は主に塩性植物の葉や根及び種子などを多く含む泥炭層~有機質泥層から成り,深度500mまでに少なくとも12枚の砂層が狭在する。砂層は層厚が1 cm未満のものから70 cm程度のものまで様々である。また,放射性炭素年代測定から,表層~500 cmまでの層準は少なくとも過去4000年間で堆積したものであると推定された。珪藻分析の結果,泥炭層~有機質泥層では,Pseudostaurosira brevistriata, Pseudostaurosira subsalina, Staurosirella pinnata, Tabellaria fenestrateなどが優占し,中性~弱酸性環境を好むPinnularia属やEunotia属が随伴した。一方,狭在する砂層からは,Diploneis smithii,Mastogloia rectaなどのより高塩分環境に生育する珪藻が相対的に多く産出した。
以上のことから過去4000年間において,この地域では,泥炭層及び有機質泥層堆積時に波浪の影響が直接及ばない淡水~塩性湿地が形成されていたと推定される。一方,コア掘削地周辺の集水域は小さいことから,狭在する砂層が崖錐由来である可能性は低いと考えられる。また,砂層はそれぞれより高塩分環境の珪藻を含むことから,いずれもコア掘削地点より海側から,津波などの強い流れにより運搬されたと推定される。さらに,泥炭層及び有機質泥層中の珪藻群集変化を見ると,砂層の層準の前後で群集が変化していた。特に砂層の堆積前には淡水生種が徐々に増加し,砂層の堆積後に淡水生種が減少した。この地域は南海トラフ沿いで発生する地震に関連した地殻変動により,地震間に隆起し,地震時に沈降することが潮位記録や歴史記録などからわかっている。本研究において認められた淡水生種の増減は,この地殻変動に伴う沿岸環境の変化を反映したものであると考えられる。
徳島県由岐町には,過去の南海トラフ起源の地震による津波の被害について書かれた資料や石碑が残されている。歴史時代に発生した古地震や古津波の履歴及び規模を詳細に明らかにするためには,こうした歴史記録と地質記録を合わせて検討する必要がある。さらに,先史時代の記録は地質記録を検討する以外に情報を得る手段はなく,より長期的な地震履歴を明らかにするためにも地質記録を検討することは重要である。本研究では,由岐町に隣接する美波町田井ノ浜で掘削された深度700 cmのボーリングコアの特に深度500 cmまでを対象として分析を行い,産出した珪藻化石群集の変化を明らかにすることから古沿岸環境の変遷及び地震性地殻変動を復元することを目的とした。
コア掘削地点は海岸から200mほど内陸に位置する。現在は休耕地であるが,かつては海岸側が砂州により閉ざされることで形成された低湿地であったと推定される。掘削されたコアは,表層~深度50 cmまでが耕作土層であるが,それより下位の層準は主に塩性植物の葉や根及び種子などを多く含む泥炭層~有機質泥層から成り,深度500mまでに少なくとも12枚の砂層が狭在する。砂層は層厚が1 cm未満のものから70 cm程度のものまで様々である。また,放射性炭素年代測定から,表層~500 cmまでの層準は少なくとも過去4000年間で堆積したものであると推定された。珪藻分析の結果,泥炭層~有機質泥層では,Pseudostaurosira brevistriata, Pseudostaurosira subsalina, Staurosirella pinnata, Tabellaria fenestrateなどが優占し,中性~弱酸性環境を好むPinnularia属やEunotia属が随伴した。一方,狭在する砂層からは,Diploneis smithii,Mastogloia rectaなどのより高塩分環境に生育する珪藻が相対的に多く産出した。
以上のことから過去4000年間において,この地域では,泥炭層及び有機質泥層堆積時に波浪の影響が直接及ばない淡水~塩性湿地が形成されていたと推定される。一方,コア掘削地周辺の集水域は小さいことから,狭在する砂層が崖錐由来である可能性は低いと考えられる。また,砂層はそれぞれより高塩分環境の珪藻を含むことから,いずれもコア掘削地点より海側から,津波などの強い流れにより運搬されたと推定される。さらに,泥炭層及び有機質泥層中の珪藻群集変化を見ると,砂層の層準の前後で群集が変化していた。特に砂層の堆積前には淡水生種が徐々に増加し,砂層の堆積後に淡水生種が減少した。この地域は南海トラフ沿いで発生する地震に関連した地殻変動により,地震間に隆起し,地震時に沈降することが潮位記録や歴史記録などからわかっている。本研究において認められた淡水生種の増減は,この地殻変動に伴う沿岸環境の変化を反映したものであると考えられる。