10:15 〜 10:30
[MIS30-06] 北海道礼文島における過去5000年間の極細粒元素状炭素堆積量の変動
キーワード:元素状炭素, バイオマス燃焼, 完新世, 礼文島
元素状炭素 ( elemental carbon : EC ) は、炭素に富み、酸素、水素、硫黄、窒素に乏しい燃焼生成物である。工業化前のECの主要な供給源はバイオマス燃焼であったが、18世紀以降は、化石燃料の燃焼がもっとも重要な供給源となっている。ECを含む黒色炭素 ( black carbon : BC ) は大気中をエアロゾルとして移動し、特に気候に多大な影響をもたらす。ECは地球温暖化を引き起こす2番目に強い要因であり、雪氷面のアルベドを低下させる効果を持つ。一方、ECを含むエアロゾルは、放射強制力を弱めることで寒冷化を引き起こすこともある。よってECの気候への正味の影響を評価することは非常に難しく、化石燃焼によるECと、バイオマス燃焼によるECを区別して評価することは重要である。ECは単一の化学物質ではないが、charとsootの2つに大別することが出来る。charは熱分解によって生じ、sootはガス-粒子の転化によって生じる。顕微鏡下で数えることのできるcharの粒子をcharcoalと呼ぶ。charcoalを数えることで過去の火災を復元した先行研究は数多くあり、後期完新世では、しばしば火災は人間活動と同調している。それゆえ、過去のEC蓄積量の変動を理解することは、人間活動と気候変動の関係を調べるのに重要である。ECの分析法はいくつかあり、thermal optical reflectance: TOR法を検討した。この方法はエアロゾルのEC/OC分析において主要な手法であり、試料へのレーザーの透過率を測定することによって、分析中の無酸素の昇温過程での熱分解によって生じるECを評価出来る。TOR法を堆積物に応用する為に、事前にスクロース、フミン酸、フルボ酸、フラーレンのサーモグラムを調べた。その結果、酸素雰囲気下、700℃-850℃で分解される炭素のフラクションがECとして定義出来る事を確認した。分析に用いた堆積物サンプルは、礼文島・久種湖から採取された。得られた5本のコア間の層序を、岩相、物性を対比することで確立し、210Pb、137Csの測定により、表層付近の堆積速度も算出した。コアの表層約0-1200 cmの範囲の粗粒/細粒比から、堆積環境が深度約600 cmの層準で海水から淡水環境になると考えられた。EC/OC分析はおよそ0-600cmの範囲で粗粒フラクション、細粒フラクションの両方に対して行った。粗粒ECはローカルなバイオマス燃焼変動を反映し、細粒ECはローカル、遠方両方のバイオマス燃焼変動を反映している可能性が示唆された。ローカルなバイオマス燃焼は、深度521 cmで増加している。217 cm以深で遠方起源のECの変動の影響が大きく、深度217 cmで最大になり、深度263cmで最小になる事が分かった。長距離輸送のECは、バイオマス燃焼による供給量の増減だけでなく、遠方起源のECを運ぶ風の経路変化にも影響されうる。