日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS30_28PM1] 古気候・古海洋変動

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 501 (5F)

コンビーナ:*山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(神戸大学内海域環境教育研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、吉森 正和(東京大学大気海洋研究所)、座長:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

14:45 〜 15:00

[MIS30-12] X線CTを用いた浮遊性有孔虫殻Globigerina bulloidesの溶解プロセス

*岩崎 晋弥1木元 克典2佐々木 理3鹿納 晴尚3本多 牧生2岡崎 裕典1 (1.九州大学大学院理学府、2.海洋研究開発機構、3.東北大学博物館)

キーワード:炭酸塩, 浮遊性有孔虫, X線CT, 殻重量, 殻密度, 溶解指標

海洋生物が形成する炭酸カルシウム(CaCO3)は海洋堆積物の主要な構成成分である。生物の殻を構成する炭酸カルシウムにはアラレ石と方解石の2つの結晶形が存在する。特に有孔虫や円石藻が形成する方解石はアラレ石より安定で、海底堆積物中に保存されやすい。炭酸塩堆積物は比較的浅い海洋底に豊富に存在するが深海底には無い。これは炭酸カルシウムの溶解が低温、高圧下で進行するためである。炭酸カルシウムの溶解が急速に進行する水深をリソクライン、海洋表層からの炭酸カルシウムの供給速度と溶解速度が釣り合う水深を炭酸塩補償深度(CCD)と呼び、炭酸カルシウムはこれら二つの水深で区切られる遷移帯(Transition zone)で溶解する。CaCO3が溶解するかどうかは、CaCO3の飽和指数(Ω)によって決定される。Ω = ([Ca2+] [CO32-])SAMPLE/Ksp Ω:飽和指数(Ω=1なら飽和, Ω>1なら過飽和, Ω<1なら不飽和)Ksp: 溶解度積炭酸カルシウムの溶解は、海水のアルカリ度を変化させアルカリポンプを通じ海洋炭素循環に影響を与える。そのため多くの古海洋研究者が炭酸カルシウムの溶解に注目し様々な溶解指標を提案した。代表的な溶解指標として浮遊性有孔虫の殻重量および破片率がある。両者は、炭酸カルシウム殻の溶解が進行すると有孔虫殻の重量減少や破壊が起こる、という考えに基づく。しかし、有孔虫殻の溶解プロセスは未だ充分に理解されていない上、いずれの指標も溶解量を定量的に測定できない。そこで本研究は有孔虫殻の溶解プロセスの解明と溶解量の数値化を目的とした。本研究は有孔虫殻の内部構造を含めた溶解プロセスを理解するために、マイクロフォーカスX線CTスキャナ(ScanXmate 11000, Comscan Techno製, 東北大学総合学術博物館に設置)を用い、マイクロメートルスケールの殻内部構造観察を行った。X線CTは対象物にX線を照射しその内部画像を三次元画像として構成する。その際、X線CTはX線の透過度を数値化することで物体の密度(空隙率)を定量的に測定できる。本研究で用いたマイクロフォーカスX線CTスキャナは0.8 μmの空間分解能を持ち、有孔虫殻内部の微細構造と密度分布を測定できる。本研究では実験水槽内で現生有孔虫殻を溶解させる溶解実験を実施し、有孔虫殻の溶解プロセス解明と殻溶解量の数値化を行った。その後、溶解実験の成果を海底表層堆積物試料へ適用した。 本研究ではまず、有孔虫殻の溶解プロセスを調べるため実験水槽内で時系列の溶解実験を行い、人為的に溶解させた有孔虫殻の内部構造と密度分布の変化をX線CTにより観察した。北西太平洋のセディメントトラップ試料(St. K2)から同サイズの浮遊性有孔虫殻(Globigerina bulloides)を集め、CO2ガスの曝気により炭酸系をコントロールした実験海水中(ΩCalcite = 0.119)で1日から9日間溶解させた。X線CT測定の結果、有孔虫殻は低密度の殻(初期成長殻・内殻)と高密度の殻(外殻)で構成されることが明らかになった。また有孔虫殻の溶解は殻中心部の初期成長殻から始まり、その後内殻へと進行した。一方、外殻はほとんど溶解せずに保存された。CT値の頻度分布(ヒストグラム)変化は、殻重量や内部構造の変化に対応しており有孔虫殻の溶解は、初期成長殻と内殻の選択的な溶解によって特徴づけられることを明らかにした。また溶解によるCT値ヒストグラムの変化を定量的に評価する指標として低密度殻体積比(低密度殻体積の全殻体積に占める比率)を提案し、この指標が溶解量の定量的指標として利用できることを示した。 溶解実験の成果は水槽実験から得られたものであり、同様の溶解プロセスと溶解量の評価方法が堆積物試料に適用できるか検証する必要がある。そこで本研究は、北太平洋高緯度海域の8海域(水深969-3135 m)から採取された表層海底堆積物試料中のG. bulloides 殻について殻重量およびX線CT測定を行った。その結果、有孔虫殻は水深が深くなるほど溶解することがわかった。また堆積物試料のX線CT測定から、溶解実験で示した有孔虫殻の溶解プロセスが堆積物試料にも当てはまることがわかった。さらに溶解量の定量的指標として提案した低密度殻体積比は殻重量と比べ測定値のばらつきが小さく、溶解指標として有効であることを示した。