日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS30_29AM1] 古気候・古海洋変動

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:45 501 (5F)

コンビーナ:*山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(神戸大学内海域環境教育研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、吉森 正和(東京大学大気海洋研究所)、座長:吉森 正和(東京大学大気海洋研究所)

10:30 〜 10:45

[MIS30-30] 氷期における南大洋成層化が海洋炭素循環に及ぼす影響の評価

*小林 英貴1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:海洋炭素循環, 最終氷期, 南大洋, 海洋大循環モデル

約80万年前から現代にかけて、氷期-間氷期サイクルに伴い、大気中二酸化炭素濃度が約80-100ppmv 程度変動していたことが、氷床コアの記録から明らかにされている。その変動には、海洋が大きく関わっていることが認識されつつあるが、その詳細なメカニズムについては、未だ未解明な点が多い。古気候データから、南大西洋深層では37.0psu を超える高塩分が示唆され、成層が現代より強くなっていたことが示唆されている。さらに、深海サンゴから得られた△14C のデータから、南大西洋で水塊年齢が3000 年を超えていたことが示されている。これらの証拠から、氷期には南大洋深層を中心に塩分による成層が強く、海洋深層が表層から隔離され、南大洋深層が氷期に炭素の大きな貯蔵庫であった可能性が示唆されている。本研究の目的は、氷期における南大洋成層化が海洋の炭素循環場に与える影響について、数値モデリングによる定量的な評価を行うことである。まずは、古気候データから示唆される、南大洋深層における高塩分かつ古い水塊年齢を、三次元の海洋大循環モデルを用いて再現することができるかを議論する。その上で、そのような南大洋での変化が大気中二酸化炭素濃度にどの程度影響するのかを評価する。現代(CTL) とLGM に関する標準実験では、大気中二酸化炭素の濃度はCTL 実験が約303ppmv、LGM 実験が約259ppmv で、LGM-CTL 間の大気中二酸化炭素濃度差は、約44ppmv であった。また、LGM 実験において、データから示唆される南大洋深層における高塩分で古い水塊は再現されなかった。ブラインリジェクション過程を表現することで、氷期の塩分分布は概ね再現できたが、南大洋深層の高密度化に伴う循環構造の変化の影響で、古い水塊年齢や氷期の大気中二酸化炭素濃度は実現されなかった。さらに、塩分成層が鉛直混合を弱化をもたらす過程を考慮するため、鉛直拡散係数を成層に依存させた形で与えたところ、高緯度の深層水形成領域で鉛直拡散係数が大きくなり、循環構造の変化が大気中二酸化炭素濃度の増加をもたらした。そこで、南大洋の成層化を想定し、南大洋の鉛直拡散係数を理想的に0.1cm2s-1 とする数値実験を実施したところ、標準実験に比べて約11ppmv の大気中二酸化炭素濃度の減少が生じたが、南大洋の局所的な成層化による深層への炭素貯蔵の増加だけでは、氷期の低い大気中二酸化炭素濃度を説明できなかった。その後、全海洋で鉛直拡散係数を理想的に0.1cm2s-1 とする実験についても行ったが、その応答は標準実験に比べて約15ppmv の大気中二酸化炭素濃度の減少に過ぎず、鉛直拡散係数の変化に伴う循環構造の変化だけでは、氷期の低い大気中二酸化炭素濃度は実現するのは困難であった。これらの結果から、炭酸塩補償過程など、今回用いた数値モデルでは表現されない過程の重要性が示唆された。