日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS30_28PO1] 古気候・古海洋変動

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(神戸大学内海域環境教育研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、吉森 正和(東京大学大気海洋研究所)

18:15 〜 19:30

[MIS30-P10] インド洋海底堆積物を用いた前期始新世 “Hyperthermals” イベントの復元

*安川 和孝1中村 謙太郎1加藤 泰浩2池原 実3 (1.東大・工・システム創成、2.東大・工・資源エネルギーフロンティアセンター、3.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:深海底堆積物, インド洋, 気候変動, hyperthermals

後期暁新世から前期始新世にかけては,新生代の中で最も温暖なバックグラウンドの気候に重ねて,さらに急激かつ短期的な温暖化イベントが発生したことが知られている.約56 Maの暁新世/始新世境界温暖化極大 (Paleocene-Eocene Thermal Maximum; PETM) では,数千年以内に気温が5-8℃上昇するとともに,海洋の酸性化と全球的なδ13C負異常が生じた.これは,同位体的に軽い (12Cに富む) 温室効果ガスが急激かつ大量に放出されたためと解釈されており,そのような温室効果ガスの起源として,海底のメタンハイドレートの分解などが考えられている [1].さらに近年,PETMとよく似た短期的な「超温暖化 (hyperthermals)」が,前期始新世 (56-52 Ma頃) において繰り返し発生していたことが分かってきた [2].このhyperthermalsでもPETMと同様,δ13Cの負異常と温暖化が同時に発生している.また,hyperthermalsは地球軌道の離心率変化周期と同期して発生しており [2, 3],大規模な大陸氷床の存在しない温暖な気候の下でも,地球軌道要素と地球表層の炭素循環および気候変動が密接に関連していることを示唆している.
Hyperthermalsの痕跡は,ここ数年で世界各地 (例えば太平洋,大西洋,北極海,ヨーロッパ,北米内陸部など) から相次いで報告されている.しかし,これまでにインド洋の海底堆積物から報告された事例はほとんどなく,インド洋はhyperthermalsに関して情報の空白域となっている.本研究では,インド洋で過去に掘削された4本のDSDP/ODP堆積物コア (DSDP Site 213, DSDP Site 259, ODP Site 738C, ODP Site 752) から採取した376試料について,全岩炭酸塩のδ13C,δ18OおよびCaCO3含有量を分析した.その結果,Site 738CおよびSite 752において,PETMを含む前期始新世のhyperthermalsにあたるとみられるδ13C,δ18O異常およびCaCO3含有量の減少を見出した.両Siteから復元されたのはH1 (Eocene Thermal Maximum 2; ETM2)/H2イベントおよびI1/I2イベント [3] と考えられる.ETM2のδ13C異常はSite 752で約-1‰,Site 738Cで約-0.5‰ ,I1のδ13C異常はSite 752,Site 738Cとも約-0.6‰であった.これらの異常は太平洋や大西洋などで得られているhyperthermalsの記録と同程度の規模であり,インド洋のhyperthermalsも他の海洋と同等の同位体比異常で特徴づけられることが明らかになった.

[1] McInerney and Wing (2011) Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 39, 489-516.
[2] Zachos et al. (2010) Earth Planet. Sci. Lett., 299, 242-249.
[3] Cramer et al. (2003) Paleoceanography, 18, 1097. doi: 10.1029/2003PA000909.