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[MIS30-P16] 浜名湖湖底堆積物の珪藻化石群集から推定された完新世後期の湖水環境変遷
キーワード:浜名湖, 湖水環境, 海跡湖, 珪藻化石, 明応地震, 完新世
遠州灘沿岸に位置する浜名湖で得られた湖底堆積物について珪藻分析を高密度で実施し,過去約4700年間の湖水環境変遷を詳細に復元した.その結果,完新世後期における浜名湖の湖水環境は大きく6ステージに区分することができ,湖水の塩分や外洋水流入量が大きく変動していたことが示唆された.また,層相や珪藻組成の変化から,何らかのイベントによって堆積した可能性の示唆される層準が計2層見出された.
浜名湖の湖水環境については,これまでに池谷ほか(1990)により湖底堆積物の層相解析,微化石分析などに基づく後氷期以降のおおまかな変遷が示され,海水準上昇による海域の形成とその後の汽水湖沼・淡水湖沼化が明らかにされている.また,森田ほか(1998)は湖底堆積物の珪藻分析を行い,完新世後期にも淡水湖沼環境と内湾環境が繰り返し生じていたことを示した.しかし,これらの研究では年代測定値の不足や誤差,珪藻分析の間隔が大きく,時間分解能が不十分であった.
浜名湖湖心部で採取された掘削長350 cmのコア試料について1 cm間隔で珪藻分析を行い,湖水環境変遷を復元した.コアは全体として泥質堆積物からなり,砂層(深度285~288 cm)と2枚のテフラ層(深度261-263 cm,深度265 cmを挟在する.テフラ層は屈折率と層相・層準から,下位がカワゴ平軽石(Kg,3126-3145 cal BP,町田・新井2003),上位が富士大沢スコリア(Os,2.5~2.8 ka,町田・新井2003)と考えられる.KgおよびOsの噴出年代と計7点の14C年代測定値に基づいてコアの年代モデルを構築し,堆積環境復元の年代軸とした.
湖底堆積物の珪藻分析結果から,浜名湖の湖水環境変遷は以下のように復元された.ステージI(4600~4700 cal BP)では汽水~海水生種が多産し,特に外洋指標種が比較的多く産出することから多量の外洋水が流入する沿岸域であったと推定される.ステージII(4500~4600 cal BP)では内湾指標種が急激に増加していることやラミナが発達することから,内湾環境が形成されたと考えられる.その後,ステージIII(2650~4500 cal BP)では,ラミナが形成されなくなることや内湾指標種が減少して淡水~汽水生珪藻が多産することから,内湾の閉鎖性が弱まって淡水・海水が混合する循環的な湖水環境になったことが示唆された.また,3500 cal BP以降には外洋指標種が多産するようになることから,外洋水の流入が増加したと考えられる.ステージIV(2250~2650 cal BP)では,外洋指標種が産出しなくなり,内湾指標種が減少して徐々に淡水~汽水生種や淡水性種が増加することから,塩分が段階的に減少していったことが示唆された.その後,ステージV(西暦1498年~2250 cal BP)では淡水生浮遊性種が優先的になることから淡水湖沼化したことが明らかになった.この淡水湖沼は,淡水~汽水生種の増加から一時的に塩分がわずかに上昇した時期があったと考えられるが,淡水生種が継続して優占しており,西暦1498年の明応地震に伴う今切口の形成まで淡水環境が継続したと推定される.ステージVI(西暦1498年以降)では再び汽水~海水生種が優占し,内湾環境が形成された.
また,イベント堆積物の可能性のある層準が計2層(下位からA・B層)検出された.A層はステージIIの深度321~322 cmに認められ,Plagiogramma sp.の顕著な増加によって特徴付けられる.Plagiogramma sp.はこの層準以外ではほぼ全層にわたり産出しないが,A層中では特異的に極めて高い産出頻度を示し,何らかの突発的な環境変化あるいは異地性珪藻の一時的な供給が生じたと考えられる.A層ではラミナが認められないことやThalassiosira sp.やThalassionema nitzschioidesが多産する傾向を示すことから,外洋水の流入量増加を伴った可能性が高い.ただし,Plagiogramma sp.の詳しい生息環境が不明であり,現段階ではA層の堆積を引き起こした要因を特定するには至っていない.また,B層はステージIII中の泥層中に挟在する砂層に対応し,淡水生種が一時的に多産する特徴を示すことから,湖岸に形成されていた淡水環境から砂質堆積物が供給されたことが示唆される.
参考文献
池谷ほか1990.地質学論集36,129-150.
森田ほか1998.Laguna(汽水域研究)5,47-53.
町田・新井2003.新編火山灰アトラス.東京大学出版会.337p.
浜名湖の湖水環境については,これまでに池谷ほか(1990)により湖底堆積物の層相解析,微化石分析などに基づく後氷期以降のおおまかな変遷が示され,海水準上昇による海域の形成とその後の汽水湖沼・淡水湖沼化が明らかにされている.また,森田ほか(1998)は湖底堆積物の珪藻分析を行い,完新世後期にも淡水湖沼環境と内湾環境が繰り返し生じていたことを示した.しかし,これらの研究では年代測定値の不足や誤差,珪藻分析の間隔が大きく,時間分解能が不十分であった.
浜名湖湖心部で採取された掘削長350 cmのコア試料について1 cm間隔で珪藻分析を行い,湖水環境変遷を復元した.コアは全体として泥質堆積物からなり,砂層(深度285~288 cm)と2枚のテフラ層(深度261-263 cm,深度265 cmを挟在する.テフラ層は屈折率と層相・層準から,下位がカワゴ平軽石(Kg,3126-3145 cal BP,町田・新井2003),上位が富士大沢スコリア(Os,2.5~2.8 ka,町田・新井2003)と考えられる.KgおよびOsの噴出年代と計7点の14C年代測定値に基づいてコアの年代モデルを構築し,堆積環境復元の年代軸とした.
湖底堆積物の珪藻分析結果から,浜名湖の湖水環境変遷は以下のように復元された.ステージI(4600~4700 cal BP)では汽水~海水生種が多産し,特に外洋指標種が比較的多く産出することから多量の外洋水が流入する沿岸域であったと推定される.ステージII(4500~4600 cal BP)では内湾指標種が急激に増加していることやラミナが発達することから,内湾環境が形成されたと考えられる.その後,ステージIII(2650~4500 cal BP)では,ラミナが形成されなくなることや内湾指標種が減少して淡水~汽水生珪藻が多産することから,内湾の閉鎖性が弱まって淡水・海水が混合する循環的な湖水環境になったことが示唆された.また,3500 cal BP以降には外洋指標種が多産するようになることから,外洋水の流入が増加したと考えられる.ステージIV(2250~2650 cal BP)では,外洋指標種が産出しなくなり,内湾指標種が減少して徐々に淡水~汽水生種や淡水性種が増加することから,塩分が段階的に減少していったことが示唆された.その後,ステージV(西暦1498年~2250 cal BP)では淡水生浮遊性種が優先的になることから淡水湖沼化したことが明らかになった.この淡水湖沼は,淡水~汽水生種の増加から一時的に塩分がわずかに上昇した時期があったと考えられるが,淡水生種が継続して優占しており,西暦1498年の明応地震に伴う今切口の形成まで淡水環境が継続したと推定される.ステージVI(西暦1498年以降)では再び汽水~海水生種が優占し,内湾環境が形成された.
また,イベント堆積物の可能性のある層準が計2層(下位からA・B層)検出された.A層はステージIIの深度321~322 cmに認められ,Plagiogramma sp.の顕著な増加によって特徴付けられる.Plagiogramma sp.はこの層準以外ではほぼ全層にわたり産出しないが,A層中では特異的に極めて高い産出頻度を示し,何らかの突発的な環境変化あるいは異地性珪藻の一時的な供給が生じたと考えられる.A層ではラミナが認められないことやThalassiosira sp.やThalassionema nitzschioidesが多産する傾向を示すことから,外洋水の流入量増加を伴った可能性が高い.ただし,Plagiogramma sp.の詳しい生息環境が不明であり,現段階ではA層の堆積を引き起こした要因を特定するには至っていない.また,B層はステージIII中の泥層中に挟在する砂層に対応し,淡水生種が一時的に多産する特徴を示すことから,湖岸に形成されていた淡水環境から砂質堆積物が供給されたことが示唆される.
参考文献
池谷ほか1990.地質学論集36,129-150.
森田ほか1998.Laguna(汽水域研究)5,47-53.
町田・新井2003.新編火山灰アトラス.東京大学出版会.337p.