日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31_2AM2] 分野横断的連携による総合的な地球温暖化研究に向けて

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 511 (5F)

コンビーナ:*立入 郁(海洋研究開発機構)、河宮 未知生(海洋研究開発機構)、筒井 純一(電力中央研究所)、座長:筒井 純一(電力中央研究所)

11:45 〜 12:00

[MIS31-11] 統合評価モデル比較研究の紹介及び統合評価モデルと影響評価との接合点

*藤森 真一郎1花崎 直太1高橋 潔1増井 利彦1甲斐沼 美紀子1肱岡 靖明1長谷川 知子1 (1.国立環境研究所)

キーワード:統合評価モデル, 影響評価, モデル比較研究, シナリオ

本発表では、①近年の統合評価モデル(IAM)のモデル比較プロジェクトと、②影響評価研究との接点について議論する。IAMのモデル比較研究は、参加者共通の主題を立て、その主題に従ったモデルやシミュレーションの条件設定を行い、モデル間比較を行う。近年のモデル比較研究の主題の例を挙げると、技術的制約(例えば原子力)、緩和策の開始年の違いがGHG削減費用に与える影響を明らかにするというものがある。各プロジェクトは3-4年かけ、その間2,3回のデータ提出と会合を行う。成果はジャーナルの特集号としてまとめる。モデル間での相互比較のために共通化する情報は、定性的なものにとどめ、社会経済条件、排出パスなどの主要な前提を各モデルに委ねる。IAMは様々なタイプが存在し、ある変数がモデルにより内生、外生変数であることがあり、できるだけ多くのモデルが参加できるように条件を緩くすることを意図している。一方、モデルの検証に関する活動が近年少しずつ注目され、比較研究プロジェクトの主題の一つになってきた。モデルに関する文書の公開、診断用のプロトコルの開発、過去の観測との比較などいくつかの取組が議論されている。次に、影響研究とIAMとの協力方法に関して、IAMの使い方に応じて大別して二種類に大別できる。第一は、影響評価コミュニティに対して排出量見通しや社会経済的な諸条件の提供者としてのIAMである。代表的濃度パス(RCP)、共通社会経済シナリオ(SSP)などがその代表的な例である。例えば、Hanasaki, et al. 1は、AIM/CGEが水モデルであるH08に情報提供するという形で行われた。第二のIAMの使い方は、IAM自身が影響評価モデルの要素を取り込んで、影響評価をするというものである。これは、影響評価モデルを独立に実行して、その結果をIAMの入力とし、IAMが影響評価を行う。Hasegawa, et al. 2がその例であり、作物生産性モデルGAEZによる潜在作物生産性影響をAIM/CGEに入力し、飢餓リスク人口を評価した。上記の例からわかるように、水、農業というのは土地利用、エネルギー供給を介してIAMの境界条件と重なる部分があり、相互作用を考慮した研究は、今後の研究課題の一つとして考えられる。いずれの種類の研究も排出シナリオと気候モデルの実験の組み合わせがベースとなり、RCP、 (CMIP5)の結果に加えてSSPが作られることによって、類似の研究がより促進されるであろう。しかし、SSPが仮に完成したとしても課題はいくつか残る。ここでは課題を2つ挙げる。第一にSSPは緩和策を含まない情報であり、緩和策を取った時には緩和策無しのSSPとは大きく異なる土地利用やエネルギー供給となる可能性がある。第二に、既存の4つのRCP以外の気候緩和レベルを実験する必要が生じたときの対応方法である。鍵となるのはパターンスケーリングの精度であると考える。パターンスケーリングが影響評価研究に耐えうる精度を持っているのであれば、RCP、CMIP5のパターンスケーリングで事足りるが、そうでなければ新たな気候実験が必要となる。CMIPに類するマルチモデルアンサンブル実験をSSPと気候緩和策を組み合わせた排出シナリオで行うと、さらに何年も要し、影響研究にとって実施は非現実的である。従って、日本内の研究チームで特定のIAM、気候モデルを組み合わせて、SSPと緩和策の組み合わせの排出シナリオに関する気候実験を行うといったことが求められる。こういった研究には、多大な労力が必要になる可能性があり、研究を実施する障壁となるが、コミュニティ間で議論を重ねることで、学術的な新規性、社会的意義などをより強く認識でき研究を促進する一つの要因になる可能性があり、本発表がその議論の一つのきっかけになることを期待する。Hanasaki, N. et al. A global water scarcity assessment under Shared Socio-economic Pathways ? Part 1: Water use. Hydrol. Earth Syst. Sci. 17, 2375-2391, doi:10.5194/hess-17-2375-2013 (2013).Hasegawa, T. et al. Climate Change Impact and Adaptation Assessment on Food Consumption Utilizing a New Scenario Framework. Environmental science & technology 48, 438-445, doi:10.1021/es4034149 (2014).