日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31_2PM1] 分野横断的連携による総合的な地球温暖化研究に向けて

2014年5月2日(金) 14:15 〜 15:45 511 (5F)

コンビーナ:*立入 郁(海洋研究開発機構)、河宮 未知生(海洋研究開発機構)、筒井 純一(電力中央研究所)、座長:立入 郁(海洋研究開発機構)

14:30 〜 14:45

[MIS31-16] 熱帯低気圧に伴う将来の極端現象を地域規模で予測するパターンスケーリング手法

*筒井 純一1 (1.電力中央研究所)

キーワード:熱帯低気圧, 潜在強度, 降水極値, パターンスケーリング, 簡易気候モデル, 排出シナリオ

気候変化研究において様々な温室効果ガス排出シナリオを評価する際、少数の代表シナリオに対する複雑な気候モデルによるアンサンブル予測を基にした、簡易気候モデルとパターンスケーリングが用いられる。簡易気候モデルは全球平均地表温度を予測変数として扱い、パターンスケーリングは、シナリオや時点に依存しない形で与えられた空間パターンを使って、様々な気候変数の空間分布を表現する。通常、パターンスケーリングで扱われる変数は、平均的な気温や降水量であるが、本研究では、パターンスケーリングの考えを気候変化影響の評価で重要となる極端現象に適用する。その一例として、日本に上陸する最強規模の熱帯低気圧を対象に、最低海面気圧と降水極値の変化を多数のシナリオで評価するスキームを提示する。本スキームは、熱帯低気圧の潜在強度の理論と一般的な降水極値の理論がベースとなる。現実の熱帯低気圧は、様々な環境制約のために、必ずしもその潜在強度に達するわけではないが、観測される最低海面気圧の下限値の年サイクルが、気候学的な潜在強度で良く表される。社会的インパクトの大きい極端に強い熱帯低気圧は、背景場の昇温によらず、自然の気候変動の大きな振れ幅の中で、ごく稀に出現する。そのような稀な事象の強度について、相対的に小さい背景的変化を評価するのは、一般に、観測統計や気候モデル実験では困難である。この問題を克服するために、本スキームは、熱帯低気圧の頻度を左右する力学的環境は考慮せず、大規模な熱力学的環境の背景的変化のみに注目する。この背景的変化は、アンサンブル気候モデル実験の結果(パターン)を参照して、全球平均気温でスケーリングし、対象とする熱帯低気圧の潜在強度の変化に反映する。さらに、降水極値の評価では、熱力学的な水蒸気量の変化に加え、基準上昇流の鉛直構造をその潜在強度の変化でスケーリングして、熱帯低気圧の強大化の効果を取り入れる。図1に、3種類のシナリオに対する評価結果を示す。本スキームは、全球平均地表温度偏差の関数として、評価対象の気圧降下量と降水極値の変化を定式化している。温度偏差は、別途開発した簡易気候モデルを用いて、気候感度の不確実性を考慮してシナリオ別に3000ケースを計算している。計算負荷は僅かであり、異なる条件で多数のシナリオを短時間で評価できる。また、ここでは示さないが、最低海面気圧が対流圏上空の気温偏差に強く依存することから、その不確実性をアンサンブル気候実験から取り入れることもできる。簡易気候モデルとパターンスケーリングの組み合わせは、このように様々な不確実性を区別できる形で扱える利点もある。図1: RCP2.6, RCP4.5, Z650と表記された3種類のシナリオに対する熱帯低気圧の確率論的評価。(a), (b): 大気中の温室効果ガス濃度と参照ケースの全球平均地表温度偏差の経年変化、(c)-(e): 1981-2000から2081-2100年にかけての温度偏差、気圧降下量の増加、降水極値の増加の確率密度関数。