日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31_2PM1] 分野横断的連携による総合的な地球温暖化研究に向けて

2014年5月2日(金) 14:15 〜 15:45 511 (5F)

コンビーナ:*立入 郁(海洋研究開発機構)、河宮 未知生(海洋研究開発機構)、筒井 純一(電力中央研究所)、座長:立入 郁(海洋研究開発機構)

15:00 〜 15:15

[MIS31-18] 気候変化によって生じるリスク連鎖の評価

*横畠 徳太1仁科 一哉1木口 雅司2井芹 慶彦3末吉 哲雄4吉森 正和2山本 彬友2本田 靖5花崎 直太1伊藤 昭彦1眞崎 良光1重光 雅仁6飯泉 仁之直7櫻井 玄7岩瀬 健太8高橋 潔1江守 正多1沖 大幹2 (1.国立環境研究所、2.東京大学、3.東京工業大学、4.海洋研究開発機構、5.筑波大学、6.北海道大学、7.農業環境技術研究所、8.野村総合研究所)

キーワード:気候変化, リスク, 水資源, 生態系, 健康, 社会

温室効果ガス濃度の増加によって生じる気候変化は、人間社会や生態系に様々な影響を及ぼす。影響の性質は様々であり、その多くは人間社会や生態系にとって好ましくない悪影響(被害)であるが、時期や場所によっては好影響(利益)をもたらすこともある。今後、社会が気候変化に対する対策を行うためには、将来気候変化によって生じうる様々な被害や利益(=リスク)について、信頼のおける予測を行う必要がある。将来の気候変化によって生じる被害や利益は、非常に幅広い分野・部門にわたって生じる可能性がある。そして、将来の気候変化のために生じる様々な分野・部門における様々な問題は、互いに深く関連している。特に、水・食料・エネルギーの部門における影響の間には、密接なつながりがあることが指摘されている(Hoff 2011, Understanding the Nexus. Stockholm Environment Institute)。例えば、気候変化によって降水量が減少すると、乾燥化や河川流量の減少などによって、作物生産性が変化する。作物生産性の変化は、食料価格の変動などを通して、社会に大きなインパクトを与える可能性がある。気候変化対策のためのバイオ燃料増産などが、食料供給の安定性に影響を与えるかもしれない。また、河川流量の変化は水力発電などのエネルギー生成量にも影響を与える可能性がある。そして、乾燥化は森林火災の頻度を増加させ、生態系にも影響を与え得る。この発表では、将来気候変化によって生じうる様々な被害や利益の連鎖と全体像を理解するための私たちの取り組みを紹介する。一つは、気候変化のために生じる様々な分野・部門における様々なリスクのつながりを、定性的に理解するための取り組みである。ここではまず、気候変化によって人間社会や生態系において生じる被害や利益を、考えられる限り全ての分野・部門において記述した、網羅的なリストを作成する(「リスク項目」リストの作成)。このリストは、気候・水資源・エネルギー・食料・健康・安全・産業・社会・生態系の分野において将来起こりえる変化を、その分野の専門家が、将来人間社会と生態系に何らかの影響を及ぼしえると判断した項目を、網羅的に記述したものであり、現時点で200程度のリスク項目が挙げられた(例えば「河川流量の減少」「作物生産性の減少」「森林火災の増加」など)。さらに、このリスク項目の間の因果関係を網羅的に記述したリストを作成する(「リスク因果関係」リストの作成)。このリストも「リスク項目」リストと同様に、様々な分野の専門家が重要だと判断した因果関係を網羅的に記述したものであり、現時点で400程度の因果関係が挙げられた(例えば「河川流量の減少」→「作物生産性の減少」など)。最後に、「リスク因果関係」で作成した因果関係を、図として表現する。手法としては、複雑ネットワークを図化する Fruchtman & Reingold 力指向アルゴリズムを用いた。得られたデータやネットワーク図をもとに、気候変化リスクの連鎖について議論を行う。将来気候変化によって生じうる様々な被害や利益の連鎖と全体像を理解するためのもう一つの取り組みは、「モデル統合」による定量的な研究である。現在我々のグループでは、気候モデルMIROC5(Watanabe et al. 2010, J. Climate)、水資源モデルH08(Hanasaki et al. 2008, HESS)、陸域生態系モデルVISIT(Ito and Inatomi 2012, Biogeosciences)、作物モデルPRYSBI2(Iizumi et al. 2013, J. Agricultural Meteorology)のすべてを統合したモデル、すなわちそれぞれのモデルが予報する変数を時間発展しながら別のモデルに受け渡すシミュレーションシステムである「陸域統合モデル」の開発を進めている。陸域統合モデルの現状と、解析によって明らかになったリスク連鎖に関して報告する。