日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS32_30AM1] 地球掘削科学

2014年4月30日(水) 09:00 〜 10:45 416 (4F)

コンビーナ:*斎藤 実篤(独立行政法人海洋研究開発機構)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、廣野 哲朗(大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻)、梅津 慶太(独立行政法人海洋研究開発機構)、座長:坂口 有人(山口大学)、黒田 潤一郎(独立行政法人海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)

09:45 〜 10:00

[MIS32-04] 底生有孔虫群集解析にもとづく,コスタリカ沖中米海溝周辺海域過去200万年間の古水深変化(IODP Exp.344:CRISP-A2)

*内村 仁美1 (1.熊本大学大学院自然科学研究科)

キーワード:底生有孔虫, 古水深, 削剥型沈み込み帯

赤道太平洋東縁,コスタリカ沖の中米海溝付近ではココスプレートがカリブ海プレートの下に沈み込んでおり,東日本大震災を引き起こした日本海溝と同様の浸食型沈み込み帯とされる.中米海溝は日本海溝よりも地震発生帯が浅いことから,地震発生帯を直接掘削・調査することを目的にCRISP計画(Costa Rica Seismogenesis Project)が進められている. 一般に浸食型沈み込み帯では,沈み込むプレートによって上盤プレートの下部が削剥されて,上盤プレート自体が沈降すると考えられている.しかしながらCRISP計画によるIODP Exp.334の1地点では上盤側の隆起が確認され,ココスリッジ沈み込みに起因するものとも推定されている.そこで同計画の第二期航海IODP Exp.344では,ココスプレートの活動に伴う地域的な変化を解明するため5地点で掘削を行った.筆者は修士論文として,掘削地点の底生有孔虫化石層序を解析し,そこで得られる群集変化から推定される上盤側海底の古水深変化とプレート活動史との関連性を追求している.本研究では,Exp.334において既に概査研究が行われている2地点を除いた3地点についての底生有孔虫群集変化を議論するため,上盤側の大陸斜面上部に位置するU1413A, C(水深540m),上盤プレート先端部に位置するU1412(水深1921m),および中米海溝の沖側のリファレンス地点U1414(水深2459m)を扱った.これらの全地点では,船上での石灰質ナンノ化石及び放散虫化石層序により,現在から約2Maまで連続的な堆積記録が確認されている.この層序区間について,船上で分取したコアキャッチャー(CC)試料と下船後に試料を追加した試料の有孔虫群を分析し,得られた結果をもとに,Rモード及びQモード・クラスター分析を通じて,群集変化を考察している. また,有孔虫化石群集の変遷を検討する上での基礎情報として,中米沖を中心に,北米から南米に至る太平洋沿岸海域の現生群集の分布を総括した.海溝外側の地点U1414において,約2 Ma以降に当たる1H?14HのCC試料は,主にUvigerina senticosa, Oridorsalis umbonatus, Pullenia bulloidesなど深海性種から構成され,大きく変化することはない(Hornの類似度指数は0.6~0.8).これは,U1414が水深2000m超の大洋底上にあって,底生有孔虫群集に影響するような劇的な変化がなかったことを示唆する.U1412の群集はQモードクラスター分析により3群に分けられた.第1群はU1414と共通した深海性の種群から構成されるグループで,これはU1414と共通する深度帯での堆積相形成を示す.他の2群は,第1群の深海性種に,第2群ではBlizalina bicostata,第3群はCibicidoides mackannaiが付随する特徴がある.この両種はともに大陸棚上に分布する種であることから,原地性の深海種群に,異地性の浅海種が混入したことを示している.最も陸よりのSite U1413は,下位より,Ⅰ帯~Ⅳ帯の4化石帯に大別される.Ⅰ帯は最下部の約250mの区間で,岩相ユニットIII(細?中粒砂岩)に対応するが,有孔虫は大陸斜面下~中部の種群から成る.Ⅱ帯はⅠ帯の上位約200mにわたる細粒砂岩層で大陸斜面中部の種群から成る.Ⅲ帯はⅡ帯の上位約60mの砂岩層であり,大陸棚中部の種群から構成される.Ⅳ帯は最上位約100mの区間で,大陸斜面上部に分布する種群から構成される.U1413では,多くの浅海性種群が混入することが明らかになった.Ⅰ帯では多数の貝化石を含む層準が確認され,底生有孔虫群集にも大陸棚中部に生息するB. bicostataが頻繁に確認され,本来の浅い生息場からの再堆積した個体と推定される.浅海性種が大陸斜面から海溝に至る広い範囲への運搬はペルー・チリ海溝でも報告された現象である(Ingle and Kolpack,1980).また,Ⅲ帯の群集は大陸棚中部の種のみで構成される.しかしながら,その直上・直下の層準に古水深変化を示すデータがまったく見られないこと,また坑内検層によりこの層序区間に褶曲構造が確認されたことから,Ⅲ帯は浅海域からのスランプ堆積物であると推定される.コスタリカ沖海域における堆積物の二次的移動は,中米海溝でカリブ海プレートの下に沈み込むココスプレートの活動に伴う地殻変動の影響と考えられる.このような海域においても,混入する異地性個体を識別することによって,原地性群集を認定し,古水深変化を理解することが可能となった.また,混入する異地性個体群の量や産出頻度は,後背地の変動を反映する可能性が高い.これらの運動史解明に向けて,共同研究者と連携を取りつつ,酸素同位体比分析や微化石層序の検討の準備を進めている.