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[MIS35-05] トレジャーストーン―バーチャルジオツアーを活用した岩石標本の作製
キーワード:島原半島世界ジオパーク, バーチャルジオツアー, 岩石標本, サイエンス・アゴラ
子供は石が大好きである。しかし子供たちになぜ石が好きかと聞いても、明確な答えは返ってこない。それは、石の持つ時空間スケールが人間のそれと大きくかけ離れているため、石の成因はもちろん、自らと石との関わりを経験に基づいて推定することが困難であるためである。よって石を知り、本当の意味で石を好きになってもらうためには、野外に出向いて石に関する一般的な知識を学び、そこから石と自分自身との関わりを体験するプロセスが必要となる。しかし、石の見学を目的に野外に出向く機会は決して多くはなく、またその行為自体が商業的に成立していないからこそ、ジオパークという仕組みを用いた地域振興が頓挫している、という現状がある。現地に行かないのであれば、現地を室内に持ってきて、そこで石と人との関わりを説明すればよい。そこで演者は、バーチャルジオツアーの手法を用いて、石と人との関わりを疑似体験しながら、室内で岩石標本を制作するプログラム「トレジャーストーン」を開発した。バーチャルジオツアーとは、室内にいるにも関わらず、実際にジオサイトを訪れたような疑似体験を聴衆にさせるプレゼンテーションスタイルのことで、日本科学未来館で毎年行われている科学の祭典「サイエンス・アゴラ2009」の場で演者が初めて実施した。バーチャルジオツアーはその後、日本ジオパーク大会や地球惑星科学連合合同大会で実施されたほか、最近では観光情報説明会でのプレゼンテーションや、ガイド養成講座における認定試験、さらには大学のゼミでも実施されるなど、さまざまなスタイルで国内に広まりつつある。このバーチャルジオツアーと岩石標本の作製を組み合わせたのが、今回紹介するプログラムである。プログラムの実施に当たって最低限必要なものは、ジオサイトの写真を掲載したプレゼンテーション資料、ジオサイトで採取できる岩石試料、そして石を貼りつける専用の台紙である。標本作りに参加するのは、小学校低学年を中心としたこども立ちであることが多いため、プログラム全体の所要時間を30分程度に設定し、紹介するジオサイトの数は5カ所、貼りつける石の数は10個程度に抑えた。このプログラムを過去2年に渡って「サイエンス・アゴラ」で実施した。標本作りに参加できるの参加定員は1回に付き8人までとした。バーチャルジオツアーの中では、露頭や石の説明だけでなく、石と人との関わりや、ジオサイトの歴史的背景、郷土の食べ物なども紹介した。参加者はバーチャルジオツアー形式でジオサイトの説明を聞いた後、同定済みの岩石試料の中から好きな形・大きさの石を選んで接着剤で台紙に貼りつける、という行為を繰り返した。また、多様な石が採取されるジオサイトについては、お気に入りの石3種類を参加者に選んでもらった。2012年は下仁田ジオパークと合同で実施し、2日間で151人が参加(関谷,2013 JpGU2013 Meeting Abstract)した。また2013年は島原半島ジオパークが単独でブースを構え(下仁田ジオパークと銚子ジオパークが別ブースで実施)、129名が参加した。これらのイベントはおおむね好評で、2012年には「サイエンス・アゴラ賞」を、2013年には参加者数を制限したにもかかわらず、来場者人気投票の5位にランクインした。トレジャーストーンは、2013年12月に地球環境パートナーシッププラザで行った「ジオパークワンダーランド展」でも実施し、サイエンス・アゴラでのリピーター3組を含め、2日間で58名が参加した。バーチャルジオツアー付きの岩石標本制作は、機材や場所が整えば、場所を問わず実施できる。主な参加者が子供であることから、岩石標本作りのブースには多くの場合、家族連れで参加することが多い。これは様々な年齢層にジオパークの見どころをPRするチャンスといえる。岩石標本作りを通して、参加者がでジオパークに興味を持ってもらえれば、本当に現地に行って岩石を採取するツアーの集客にもつながることが予想されることから、2014年度は、さらに複数のジオパークがサイエンス・アゴラにて岩石標本制作に参加してほしい。