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[MIS35-15] 白山におけるジオパーク、ユネスコエコパーク、国立公園の連携
キーワード:ジオパーク, ユネスコエコパーク, 国立公園, 白山, 地質多様性, 生物多様性
白山は、中部日本の日本海側にそびえたつ独立峰で、標高は2,702mに及ぶ。富山県・石川県・福井県・岐阜県の4県にまたがる区域が1962年に国立公園に指定され、さらに1980年にユネスコの生物圏保存地域(国内呼称はユネスコエコパーク。以下「ユネスコエコパーク」)に登録された。そして2011年には、白山の山頂部を含む石川県白山市の全域が、白山手取川ジオパーク(日本ジオパーク)に認定された。その結果、白山には自然の保護と利用に関する3つの枠組みが共存することとなり、3者相互の連携は1つの課題であると同時に、大きなチャンスともなった。国立公園は、日本を代表するすぐれた自然の風景地を保護するために開発等の人為を制限するとともに、自然と親しむ利用がしやすいように情報提供や施設整備をしている場所であり、自然公園法に基づき管理されている(国内31地域)。ユネスコエコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用との調和を実現する場所で、ユネスコの「人間と生物圏」計画の1事業として実施されている。保全機能・経済と社会の発展に関する機能・学術的研究支援の機能の3つの機能を有しており、それらの機能を効果的に発揮するため核心地域・緩衝地域・移行地域のゾーニングが行われている(国内5地域)。一方、ジオパークはジオ(地球)に親しみ、ジオを学ぶ旅ジオツーリズムを楽しむ場所であり、ユネスコの支援のもと実施されている(国内では世界ジオパーク6地域及び国内版の日本ジオパーク27地域)。ユネスコエコパークとジオパークは、どちらも持続可能な社会の発展を目標に据えており、世界遺産とは違って保全だけではなくその積極的な活用を謳っている。また、地域間のネットワークを形成して相互の支援やプログラムの普及拡大を目指しているなど、共通点は多い。一方で違いも見られ、ユネスコエコパークはユネスコの公式プログラムだが、ジオパークはユネスコの支援プログラムである。そして最も大きな違いは、ユネスコエコパークが動植物を中心とした生態系に重きを置いているのに対し、ジオパークは地質・地形などの大地に重きを置いている点であろう。しかし、両者とも生態系や大地だけに注目している訳ではなく、例えば文化や生活とのつながりにも言及している。白山を例に挙げれば、白山山麓の白峰集落では、山間地のわずかな平地である細長い河岸段丘上に集落が成立し、焼畑や林業などの生業が営まれてきた。これは地形の利用であると同時に、生物資源の利用でもあるといえるだろう。また、山頂周辺に目を向ければ、多様な高山植生が見られる一方で、その立地には積雪の多寡や地形の形成など大地の諸要素が影響していることが指摘できる。大地、生態系、文化は密接に関連しており、ユネスコエコパークとジオパークの双方の活動を推し進めることで、その関連は一層明確になることが期待される。この文脈でとらえれば、ジオツアーとエコツアーは時に同じツアーとして(言うなれば小泉(2011)の言う「ジオエコツアー」として)実施できるだろう。そんな両者の取り組みを下支えしているのが、国立公園である。ユネスコエコパーク・ジオパークともに各国内での法的拘束力は有していないが、各国の国内法規等で適切な保全措置を採ることを求めている。日本では保全措置を担保する代表的な制度が国立公園であり、特別保護地区、特別地域、普通地域などのゾーニングのもと、段階に応じた開発の規制が行われている。また、国立公園はそれ自体も利用促進の取り組みを行っており、よりテーマ性の明確なユネスコエコパーク・ジオパークと連携することで、新たな魅力が創出できるものと思われる。しかしこれらの連携も、それぞれの管理・活動主体同士の連携がうまくいかなければ、絵に描いた餅に終わってしまう。そこで白山では、白山手取川ジオパーク推進協議会と白山ユネスコエコパーク協議会の事務局を、ともに白山市ジオパーク推進室が担い、同じスタッフが事務局を務めることで、両者の連携をこれ以上ない強いものとしている。そして国立公園を管理する環境省は、この両協議会のメンバーに加わっている。3者の連携はまだ始まったばかりだが、この恵まれた条件を活かして、白山から発信する新たな価値と魅力の創出に努めていきたい。