18:15 〜 19:30
[MIS35-P13] ジオ鉄を楽しむ-6. 土佐くろしお鉄道中村・宿毛線
キーワード:ジオ鉄, ジオポイント, 土佐くろしお鉄道中村・宿毛線, ループトンネル, 四万十帯, 中筋低地帯
1.ジオ鉄の活動と目的
「ジオ鉄」とは,身近で安全な公共交通機関である鉄道を利用して,誰もが気軽に楽しみながら地質・地形など自然や地球環境のことを学ぶ活動の呼び名である(加藤ほか,2009).筆者らによるジオ鉄の取組みは今年で6 年目を迎え,深田研ジオ鉄普及員会により活動を継続している(藤田ほか,2013).ジオ鉄では鉄道を通じて「見る」「触れる」「感じる」ことのできる地質・地形遺産やそれらと深く関わる鉄道施設や廃線遺構,さらには文化遺産を「ジオポイント」として選定し,一般の人向けに専門家の解説で見どころを紹介している.本稿ではジオ鉄第6路線「土佐くろしお鉄道中村・宿毛線」のルートを紹介する.
2.ジオ鉄を楽しむ―第6路線土佐くろしお鉄道中村・宿毛線
(1)中村・宿毛線の概要
高知県西部を走る土佐くろしお鉄道中村・宿毛線は,高知県四万十町窪川と同県宿毛市を窪川-中村間43.0km,中村-宿毛間23.6kmで結ぶ単線非電化の路線である.窪川駅でJR土讃線と接続し,若井駅の先の川奥信号場でJR予土線と分岐する.列車本数は1~2時間ごとに特急列車,約1時間ごとに普通列車が運行し,県西部の通学や観光アクセスの役割を担っている.とくに普通列車の車体デザインは種類が豊富で,やなせたかし氏の描くサニーくんとサンコちゃんが色鮮やかな「だるま夕日号」のほか,県西部の7市町村それぞれにラッピング車両があり,ジョン万次郎,ジンベイザメ,クジラ,海中写真と柏島,中村の小京都,ヒメノボタン,マラソン大会など,ご当地の魅力満載の列車が沿線風景を楽しませてくれる.
中村・宿毛線の名は建設経緯に由来する.当初,四国循環鉄道として鉄道敷設法により「宇和島ヲ經テ高知縣中村ニ至ル鐡道」として予定されていた宿毛線.しかし昭和26年窪川まで開通した国鉄土讃本線(現JR土讃線)や,昭和28年吉野生-江川崎間を延伸した宇和島線(現JR予土線)の影響もあり,昭和28年改正鉄道敷設法で窪川-中村間が予定線になると中村線の建設が優先された.昭和31年,土讃本線の延長としての性格をもって国鉄中村線は着工され,同38年土佐佐賀まで,同45年中村まで開通した.しかしながら土讃本線に編入されなかったことが災いして国鉄の廃止対象路線となり,JR四国へ継承後の昭和63年に廃止となった.一方,宿毛線は昭和49年に着工するも,同56年国鉄再建法により凍結.両路線はその後,第三セクターの土佐くろしお鉄道株式会社に引継がれ,平成9年10月,念願の宿毛線開業により現在の形となった.
(2) 中村・宿毛線の恵まれた地形・地質遺産
中村・宿毛線は四万十川流域の白亜紀から古第三紀にかけての砂岩や泥岩からなる四万十帯の付加体地質を走る.列車は四万十川上流域に位置する高知県四万十町の窪川駅(標高210m)を出発するとほどなく沈下橋のかかる四万十川沿いの若井駅へ.川奥信号場で予土線に別れを告げると,当路線ハイライトのひとつ第1川奥トンネル(2031m)へ.車内ではコンパスを片手にぐるりと回転する針を見ながら半径350m,勾配20‰で下るループトンネルを体感したい.トンネルを出ると車窓は谷底平野沿いに細長い田んぼが続く.荷稲駅(標高47m)に着くまでに沿線最大23‰の勾配を下りきり,列車は伊与木川沿いを進む.伊与木川下流で春の風物詩,鯉のぼりと鰹の川渡しが見えるとすぐに鰹の一本釣りで有名な土佐佐賀駅に到着.海に見えるのは豊漁祈願の神社のある鹿島だ.土佐佐賀駅から先は急峻な大方山地が海岸まで迫っているため幾つも短いトンネルをくぐる.途中,土佐白浜駅周辺で展望できる四万十帯のタービダイトの海岸露頭は見逃せない.土佐白浜-有井川間で第一伊田トンネル(1260m)を通過する間に井ノ岬の海成段丘を越える.砂浜美術館やサーフィンで賑わう浮鞭―土佐入野間では,沿岸漂砂による加持川(吹上川)の河口偏倚と,入野松原の賀茂神社にある南海地震の石碑を訪れたい.
列車は古津賀駅を過ぎると進路を西へ.幡多地域の中心地・中村市街地を抜け,旧国道56号の赤鉄橋を横目に四万十川を渡る.四万十川下流には度重なる洪水災害の果てに建設された長大な背割堤が支流の中筋川との間に延びている.列車はその先,中筋川沿いを遡りながら中筋低地帯(鹿納ほか,2003)をゆく.かつてこの低地帯は四万十帯北帯と南帯の境界をなす中筋地溝帯と呼ばれたが,現在,四万十帯を不整合で覆う古第三系の暁新世から始新世の斜面海盆堆積物(百笑層:砂岩・黒色頁岩と白色凝灰岩の互層)が侵食された地形であるとされている(鹿納ほか,2003).列車は高架を西へ進み,四国第二位の長さを誇る聖ヶ丘トンネル(5084m)を抜けると宿毛駅に到着.陸繋島の咸陽島とだるま夕陽を見つめながら,幻の宇和島-宿毛間の四国循環鉄道に想いを馳せたい.
「ジオ鉄」とは,身近で安全な公共交通機関である鉄道を利用して,誰もが気軽に楽しみながら地質・地形など自然や地球環境のことを学ぶ活動の呼び名である(加藤ほか,2009).筆者らによるジオ鉄の取組みは今年で6 年目を迎え,深田研ジオ鉄普及員会により活動を継続している(藤田ほか,2013).ジオ鉄では鉄道を通じて「見る」「触れる」「感じる」ことのできる地質・地形遺産やそれらと深く関わる鉄道施設や廃線遺構,さらには文化遺産を「ジオポイント」として選定し,一般の人向けに専門家の解説で見どころを紹介している.本稿ではジオ鉄第6路線「土佐くろしお鉄道中村・宿毛線」のルートを紹介する.
2.ジオ鉄を楽しむ―第6路線土佐くろしお鉄道中村・宿毛線
(1)中村・宿毛線の概要
高知県西部を走る土佐くろしお鉄道中村・宿毛線は,高知県四万十町窪川と同県宿毛市を窪川-中村間43.0km,中村-宿毛間23.6kmで結ぶ単線非電化の路線である.窪川駅でJR土讃線と接続し,若井駅の先の川奥信号場でJR予土線と分岐する.列車本数は1~2時間ごとに特急列車,約1時間ごとに普通列車が運行し,県西部の通学や観光アクセスの役割を担っている.とくに普通列車の車体デザインは種類が豊富で,やなせたかし氏の描くサニーくんとサンコちゃんが色鮮やかな「だるま夕日号」のほか,県西部の7市町村それぞれにラッピング車両があり,ジョン万次郎,ジンベイザメ,クジラ,海中写真と柏島,中村の小京都,ヒメノボタン,マラソン大会など,ご当地の魅力満載の列車が沿線風景を楽しませてくれる.
中村・宿毛線の名は建設経緯に由来する.当初,四国循環鉄道として鉄道敷設法により「宇和島ヲ經テ高知縣中村ニ至ル鐡道」として予定されていた宿毛線.しかし昭和26年窪川まで開通した国鉄土讃本線(現JR土讃線)や,昭和28年吉野生-江川崎間を延伸した宇和島線(現JR予土線)の影響もあり,昭和28年改正鉄道敷設法で窪川-中村間が予定線になると中村線の建設が優先された.昭和31年,土讃本線の延長としての性格をもって国鉄中村線は着工され,同38年土佐佐賀まで,同45年中村まで開通した.しかしながら土讃本線に編入されなかったことが災いして国鉄の廃止対象路線となり,JR四国へ継承後の昭和63年に廃止となった.一方,宿毛線は昭和49年に着工するも,同56年国鉄再建法により凍結.両路線はその後,第三セクターの土佐くろしお鉄道株式会社に引継がれ,平成9年10月,念願の宿毛線開業により現在の形となった.
(2) 中村・宿毛線の恵まれた地形・地質遺産
中村・宿毛線は四万十川流域の白亜紀から古第三紀にかけての砂岩や泥岩からなる四万十帯の付加体地質を走る.列車は四万十川上流域に位置する高知県四万十町の窪川駅(標高210m)を出発するとほどなく沈下橋のかかる四万十川沿いの若井駅へ.川奥信号場で予土線に別れを告げると,当路線ハイライトのひとつ第1川奥トンネル(2031m)へ.車内ではコンパスを片手にぐるりと回転する針を見ながら半径350m,勾配20‰で下るループトンネルを体感したい.トンネルを出ると車窓は谷底平野沿いに細長い田んぼが続く.荷稲駅(標高47m)に着くまでに沿線最大23‰の勾配を下りきり,列車は伊与木川沿いを進む.伊与木川下流で春の風物詩,鯉のぼりと鰹の川渡しが見えるとすぐに鰹の一本釣りで有名な土佐佐賀駅に到着.海に見えるのは豊漁祈願の神社のある鹿島だ.土佐佐賀駅から先は急峻な大方山地が海岸まで迫っているため幾つも短いトンネルをくぐる.途中,土佐白浜駅周辺で展望できる四万十帯のタービダイトの海岸露頭は見逃せない.土佐白浜-有井川間で第一伊田トンネル(1260m)を通過する間に井ノ岬の海成段丘を越える.砂浜美術館やサーフィンで賑わう浮鞭―土佐入野間では,沿岸漂砂による加持川(吹上川)の河口偏倚と,入野松原の賀茂神社にある南海地震の石碑を訪れたい.
列車は古津賀駅を過ぎると進路を西へ.幡多地域の中心地・中村市街地を抜け,旧国道56号の赤鉄橋を横目に四万十川を渡る.四万十川下流には度重なる洪水災害の果てに建設された長大な背割堤が支流の中筋川との間に延びている.列車はその先,中筋川沿いを遡りながら中筋低地帯(鹿納ほか,2003)をゆく.かつてこの低地帯は四万十帯北帯と南帯の境界をなす中筋地溝帯と呼ばれたが,現在,四万十帯を不整合で覆う古第三系の暁新世から始新世の斜面海盆堆積物(百笑層:砂岩・黒色頁岩と白色凝灰岩の互層)が侵食された地形であるとされている(鹿納ほか,2003).列車は高架を西へ進み,四国第二位の長さを誇る聖ヶ丘トンネル(5084m)を抜けると宿毛駅に到着.陸繋島の咸陽島とだるま夕陽を見つめながら,幻の宇和島-宿毛間の四国循環鉄道に想いを馳せたい.