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[MIS36-05] NaClO3溶液成長におけるアキラル-キラル多形転移を介したキラリティの発生と増幅
キーワード:塩素酸ナトリウム, キラリティ対称性の破れ, キラル結晶化, 準安定相, 多形転移, その場観察
キラリティは、自然界の様々な階層において普遍的に存在する概念である。両鏡像異性体の安定性は同じであるにも関わらず、地球上における生命は、片方の鏡像異性体(例えば、アミノ酸はL体、糖はD体)のみで構成されている。この現象は、ホモキラリティと呼ばれ、その起源と同一キラリティの増幅過程は原始地球環境における生命進化上の謎である。ホモキラリティの起源の1つとして、アキラルな物質のキラル結晶化が考えられている。塩素酸ナトリウム(NaClO3)は、アキラルな水溶液からキラル結晶する。NaClO3は立方晶系の結晶構造にキラリティを有する。NaClO3水溶液を静置し、蒸発させ結晶を得ると両鏡像体は同数得られる。ところが、水溶液に攪拌を施すと、片方の鏡像体のみ得られることがKondepudiらにより明らかにされた[1]。両鏡像体の熱力学的安定性は同じであるにもかかわらず、何故、キラリティが偏るのか、その機構は未解明である。後続の結晶化実験により、対称性の破れは結晶化初期で起きることが示唆されている。しかし、その初期過程を直接的に調べた研究はない。そこで、著者らは、NaClO3結晶化初期過程の顕微鏡”その場”観察を試みた。その結果、キラル結晶の形成に先立ち、アキラルな単斜晶系の準安定相が現われることを明らかにし、2011年度の地球科学連合大会で報告した。本研究では、さらに詳細なその場観察を試み、キラリティ発生過程と増幅過程を明らかにする。22℃で飽和なNaClO3水溶液滴(6μl)をスライドガラス上で蒸発させ、蒸発により誘起される結晶化過程を偏光顕微鏡によりその場観察した。液滴の温度は、ペルチェ素子を用いて22℃に保たれた。偏光顕微鏡により複屈折の有無を検知し、立方晶か非立方晶かを判別し、キラル結晶とアキラル結晶を区別した。また、偏光顕微鏡により旋光性を検知し、キラル結晶の掌性を判別した。アキラル結晶からキラル結晶への多形転移が観察された。その多形転移は、転移速度の違いにより2種類に分類できることがわかった。遅い転移はおよそ35 μm/sec で進行し(Fig. A)、速い相転移はおよそ2000μm/sec の速さで進行した(Fig. B)。また、遅い相転移は、キラル結晶との接触により誘起されることがわかった。この接触誘起転移の場合、接触した結晶のキラリティと相転移の結果現れた結晶のキラリティは、同じであることがわかった。転移速度における2桁もの違いは、転移機構の違いが原因であると推測される。そのため、速い相転移と遅い相転移は、それぞれ、構造相転移と液相媒介相転移であると考えられる。構造相転移の場合、転移に要する活性化エネルギーは両鏡像体で等しいと推測されるので、両鏡像体は同確率で現われると考えられる。一方で、接触誘起の液相媒介相転移の場合、結果現われる結晶は、接触した結晶のキラリティを引き継ぐ。この特徴は、同一のキラリティの増幅過程であると考えられ、系のキラリティが偏る原因の1つであると考えられる。これまで、キラリティの発現と増幅は、それぞれ、キラル結晶の一次核形成と、一次核形成により現れたキラル結晶を元にした二次核形成により解釈されてきた。それに対し、本研究では、結晶多形転移に基づいた新たなキラリティ発現・増幅機構が示唆された。参考文献[1] D.K. Kondepudi, R. J. Kaufman & N. Singh, (1990). Science, Vol. 250, pp.975-976.[2] H. Niinomi, T Kuribayashi, H. Miura & K. Tsukamoto, Japan Geoscience Union Meeting 2011, MIS020-06.