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[MIS36-14] 大規模MD計算による凝縮核生成エネルギーの導出および核生成率の新しいスケーリング
キーワード:核生成, 分子動力学計算, 核生成率, スケーリング, 凝縮核, 自由エネルギー
核形成過程は、様々な分野で重要な役割を果たすが、分子レベルでの理解は未だ限られている。古典的核形成理論は、均質核形成の巨視的記述を与え、広く用いられているが、理論から得られる核生成率は実験や分子シミュレーションから得られる核生成率と何桁も一致しないことが示されている。我々は気相からの核生成過程を調べるため、大規模並列計算機を用いて10億から80億のレナード・ジョーンズ分子による分子動力学計算を行ってきた。これにより従来より4桁以上低い核生成率の現象を調べることが可能となり、これまで難しかった室内実験条件と同様の低過飽和状態での核生成過程を再現することに成功した (Deimand et al. J. Chem. Phys. 139,074309, 2013)。幅広い条件下での計算を行うことにより、核生成率の算出のみではなく、核生成の際のクラスター分布の詳細な情報を得ることが可能になった。本研究では大規模計算から得られたクラスター分布からクラスター形成のための自由エネルギーを算出した。ナノサイズの臨界核を形成するための自由エネルギーは従来の巨視的な見積りより大幅に小さくなり、これにより室内実験で得られる高い核生成率が説明できる。また自由エネルギーからクラスターの表面エネルギーのサイズ依存性を求めた。クラスターの表面エネルギーとバルクの表面エネルギーの比は温度によらず曲率のみに依存するという結果が得られた。得られた結果はクラスターの表面エネルギーのサイズ依存性が曲率に依存するTolmanの関係式を良く満たしていることを示す。算出した自由エネルギーを用いることにより任意の過飽和比に使える核生成率の表式が得られた。またこれらの結果を用いて核生成率および臨界核に関する新しいスケーリングの関係を見出した。新たなスケーリングは臨界核のサイズおよび ln J' / η がln S / ηのみに依存することを示す (J'は無次元核生成率、Sは過飽和比、ηは無次元のバルクの表面エネルギー)。得られたスケーリングの関係と分子計算および実験と比較したところ、このスケーリングの関係が幅広い温度や過飽和比において成り立っていることが分かった。