[M-TT41_28PO1] 地球惑星科学における地図・空間表現

[MTT41-P09] 津波挙動と津波避難開始時の状況に関する可視化と，その津波防災啓発への有効性について

*木村 裕行¹、菅原 大助²、今村 文彦² (1.復建調査設計株式会社、2.東北大学　災害科学国際研究所)

キーワード：津波挙動, 津波避難, 可視化, 防災啓発

近年，南海トラフでの津波による甚大な津波被害が予測されており，特に西日本の太平洋沿岸地域を中心に津波防災への関心が高まっている．人的被害軽減のため，継続的かつ効果的な防災啓発と教育によって，津波に対する防災意識が高く維持されることが重要である．津波避難に関しては，沿岸地域の住民が適切な避難方法と避難計画に基づいて早期に避難を開始できることが重要であり，これを可能とさせるために津波の挙動や避難時の状況について理解を深めておくことが有用と考えられる．そこで，筆者らは，津波挙動や津波避難時の状況の可視化を試み，これらの可視化を活用した津波防災啓発・教育の方法とその有効性について検討した．本発表では，宮城県岩沼市沿岸地域を対象とした検討例を紹介する予定である．
東北地方沿岸地域では，東日本大震災前後の地域状況が斜俯瞰の航空写真で撮影されている．これらの航空写真から，土地利用に加えて地形の起伏や建物の高さなどの高さ情報が読み取れるため，地域状況を立体的に把握することが可能である．そこで，筆者らはまず，2011年東北地方太平洋沖地震津波の数値シミュレーションより得られる時間毎の浸水域を斜俯瞰航空写真と重ね合わせ，立体感を持たせた現実性のある津波の可視化を試みた．この方法により，土地利用や地形状況による影響を受けながら陸上を氾濫する津波の俯瞰的な把握が可能になると考えられる．
次に，津波避難時の緊急性や時間的猶予を把握するための情報として，避難開始時における移動可能範囲等の状況について可視化を試みた．避難方法の計画に有用となるように真俯瞰の衛星写真や航空写真を活用し，地域の道路網や避難施設に加えて，地域の代表的な地点からの等距離線などを表示させた．地域の代表地点を例として表示することにより，仮にその地点から津波避難を行う場合にどのような移動方法を選択するか，またその方法は妥当であるかを独自に検討できるものとした．実際の津波避難の開始地点は必ずしも自宅や職場など馴染みのある場所とは限らない．本手法により，日常生活において避難時の状況は多様であること，避難が困難と思われる地域も存在することなど，避難を計画する上で重要な情報を容易に読み取ることができる．
津波挙動及び避難開始時の状況の可視化は，沿岸地域の住民や自治体が，津波避難計画の策定やその妥当性を独自に検証するためのツールになると期待できる．また，津波自体の挙動に加えて，津波時に自らが置かれる状況についても相互に理解を深めることができる．津波防災啓発・教育効果の増大の観点から，津波挙動及び避難開始時の状況を可視化することの有用性は極めて高いと考えらえる．