16:15 〜 17:30
[MTT44-P03] 地理空間情報分野における開発環境のソーシャル化に関する考察
キーワード:オープンカルチャー, 自由でオープンな地理情報ソフトウェア, クラウドソーシング, ギットハブ
1.はじめに
地理空間情報をめぐる技術・制度的展開は,2000年以降オープンソース運動・文化の普及に伴い,GIS分野でも技術・情報のオープン化が一つのトピックとして重要視されるようになってきた.さらにオープン文化が社会・政治・経済領域にも波及することによって,オープンガバメントのように,行政機関の地理空間情報が広く開放され始めている.
2010年代以降の地理空間情報技術の大きな特徴は,ソースコードが単にオープンになること以外にも,コード開発,ソフトウェア文書やインターフェース翻訳に関する種々のプラットフォーム,さらには開発コンセプト自体が,クラウド上でソーシャルに行われているという点である.そこで本発表では,オープンソース地理空間ソフトウェア(FOSS4G)における幾つかの事例を中心に,ソーシャルな開発環境を明らかにした上で,これらの試みがどのような効果や課題を有しているかを検討する.
2.開発環境のソーシャル化を支えるプラットフォーム
代表的なデスクトップGISであるQGISを始め,OSGeo財団が支援するオープンソース・ソフトウェアは,Sourceforgeなどを介してソースコードの公開が進められてきた.さらにOSGeo財団に関わるプロダクトを集めたLive-DVDが開発されているが,これらについてはSubversionという集中型バージョン管理システムが利用され,情報交換のMLやIRC等を用いることで,プロプライエタリなソフトウェアよりも活発な意見交換が行われてきた.
こうしたソーシャルな仕組みが,2010年頃より積極的に導入が始まったGitHubと,Webベースの翻訳プラットフォームであるTransifexの登場で劇的に変化した.GitHubはバージョン管理システムであるGitを扱いやすくしたWebプラットフォームで,feedやfollow, watchなどソースコードの注目度を視覚化できる.またプログラムの変更箇所を書き込むcommitや,ソースコードを自らの開発プロジェクトの一部に取り入れるforkなど,ソースコードの多様な活用手段が提供されている.OSGeoに関するソフトウェアの幾つかは,Gitに移行し始めており,特にWeb地図用のプラットフォームは,機能の拡張性等の関係で積極的に利用されている.またGeoJSONを用いると,GitHub上に地理空間情報を簡易的な地図付きで掲載が可能である.これにより,オープンデータの配布がソースコードと同様に可能である.
TransifexはWeb上でのローカライズ管理システムで,翻訳用インターフェースの利便性や進捗状況の視覚化機能を有する.QGISを始め約20以上のOSGeoに関するプロダクトが翻訳され,日本語化率100%のソフトウェアも存在する.またソフトウェアのヘルプや文書類も扱うことが可能なため,QGISのマニュアル翻訳以外にも,オープンデータの事例集の翻訳なども情報共有されている.
3.ソーシャル化がオープン化にもたらす効果と課題
以上の新しいソーシャルなプラットフォームは,地理空間情報技術をめぐって多くの機会を創出している.例えばハーバード大学のWorldmapは,Geonodeをベースに様々な地理空間情報ライブラリが組み合わされ,一つのパッケージとして開発されている.また,フィラデルフィア市はGitHubを通じて市政データのAPI配布や地理空間情報のオープンデータ化を進めている.日本でも,CityDataやIdeaLinkDataといった同様のプラットフォームが稼働し,地理空間情報をめぐる様々な主体の関与が今後期待される.このような動向は,Webを通じた開発者やデータ利用者の参加機会を増大させ,ハッカソンなど開発イベントを行う上で,様々なリソースを直接提供する媒体ともなりつつある.
他方,オープンソースがソーシャル化する反面,プロダクト開発自体が機能やコードごとに細分化されてしまったり,ソースコード改変による他のプロダクトへの影響が大きくなっている.ソーシャル化によって開発者の相互の情報交換が広まったとはいえ,日本においては開発を主導する貢献者が圧倒的に少なく,ソフトウェアやマニュアル等の日本語翻訳の手間も少なくない.したがって,オープンデータに代表されるデータ生成へのソーシャルな貢献と同様に,地理空間情報に適したデータ操作や視覚化を支援するソフトウェア開発・翻訳においても,参加機会の創出やGIS教育における導入などが期待される.
地理空間情報をめぐる技術・制度的展開は,2000年以降オープンソース運動・文化の普及に伴い,GIS分野でも技術・情報のオープン化が一つのトピックとして重要視されるようになってきた.さらにオープン文化が社会・政治・経済領域にも波及することによって,オープンガバメントのように,行政機関の地理空間情報が広く開放され始めている.
2010年代以降の地理空間情報技術の大きな特徴は,ソースコードが単にオープンになること以外にも,コード開発,ソフトウェア文書やインターフェース翻訳に関する種々のプラットフォーム,さらには開発コンセプト自体が,クラウド上でソーシャルに行われているという点である.そこで本発表では,オープンソース地理空間ソフトウェア(FOSS4G)における幾つかの事例を中心に,ソーシャルな開発環境を明らかにした上で,これらの試みがどのような効果や課題を有しているかを検討する.
2.開発環境のソーシャル化を支えるプラットフォーム
代表的なデスクトップGISであるQGISを始め,OSGeo財団が支援するオープンソース・ソフトウェアは,Sourceforgeなどを介してソースコードの公開が進められてきた.さらにOSGeo財団に関わるプロダクトを集めたLive-DVDが開発されているが,これらについてはSubversionという集中型バージョン管理システムが利用され,情報交換のMLやIRC等を用いることで,プロプライエタリなソフトウェアよりも活発な意見交換が行われてきた.
こうしたソーシャルな仕組みが,2010年頃より積極的に導入が始まったGitHubと,Webベースの翻訳プラットフォームであるTransifexの登場で劇的に変化した.GitHubはバージョン管理システムであるGitを扱いやすくしたWebプラットフォームで,feedやfollow, watchなどソースコードの注目度を視覚化できる.またプログラムの変更箇所を書き込むcommitや,ソースコードを自らの開発プロジェクトの一部に取り入れるforkなど,ソースコードの多様な活用手段が提供されている.OSGeoに関するソフトウェアの幾つかは,Gitに移行し始めており,特にWeb地図用のプラットフォームは,機能の拡張性等の関係で積極的に利用されている.またGeoJSONを用いると,GitHub上に地理空間情報を簡易的な地図付きで掲載が可能である.これにより,オープンデータの配布がソースコードと同様に可能である.
TransifexはWeb上でのローカライズ管理システムで,翻訳用インターフェースの利便性や進捗状況の視覚化機能を有する.QGISを始め約20以上のOSGeoに関するプロダクトが翻訳され,日本語化率100%のソフトウェアも存在する.またソフトウェアのヘルプや文書類も扱うことが可能なため,QGISのマニュアル翻訳以外にも,オープンデータの事例集の翻訳なども情報共有されている.
3.ソーシャル化がオープン化にもたらす効果と課題
以上の新しいソーシャルなプラットフォームは,地理空間情報技術をめぐって多くの機会を創出している.例えばハーバード大学のWorldmapは,Geonodeをベースに様々な地理空間情報ライブラリが組み合わされ,一つのパッケージとして開発されている.また,フィラデルフィア市はGitHubを通じて市政データのAPI配布や地理空間情報のオープンデータ化を進めている.日本でも,CityDataやIdeaLinkDataといった同様のプラットフォームが稼働し,地理空間情報をめぐる様々な主体の関与が今後期待される.このような動向は,Webを通じた開発者やデータ利用者の参加機会を増大させ,ハッカソンなど開発イベントを行う上で,様々なリソースを直接提供する媒体ともなりつつある.
他方,オープンソースがソーシャル化する反面,プロダクト開発自体が機能やコードごとに細分化されてしまったり,ソースコード改変による他のプロダクトへの影響が大きくなっている.ソーシャル化によって開発者の相互の情報交換が広まったとはいえ,日本においては開発を主導する貢献者が圧倒的に少なく,ソフトウェアやマニュアル等の日本語翻訳の手間も少なくない.したがって,オープンデータに代表されるデータ生成へのソーシャルな貢献と同様に,地理空間情報に適したデータ操作や視覚化を支援するソフトウェア開発・翻訳においても,参加機会の創出やGIS教育における導入などが期待される.