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★ [O01-02] 沖縄県の地域防災力の向上に向けた取組
亜熱帯域に位置し海に囲まれた弧状列島より成る沖縄県では、日本の他県と異なる特有の自然災害が多発している。西太平洋の赤道域から沖縄近海に掛けては「Western Pacific Warm Pool」に当り、台風は沖縄県域に接近する頃には勢力が強大となる。これに伴う高潮、更に、暖水渦の陸地への接近での高潮に対しても、警戒が必要である。また、南西諸島海溝沿いの海溝型巨大地震、特に、宮古・八重山域ではマグニチュード7を超える地震も頻繁に発生している。プレート内活断層も数多く見られ、島内、周辺海域を問わず、九州から台湾に至る島弧を胴切りするタイプの断層の多くが活断層と認定されている。狭い島から成る県域での地震は殆どが海底で発生するため、常に津波被害を警戒しなければならない。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震以降、沖縄県でも津波浸水高の想定を見直し、2013年3月にその結果が公表されている。 これらの自然災害から身を守ることは、人間が生きる上で根幹に関わることであるから、そのための知識は、学校教育、特に、初等・中等教育で教えられるべきである。これらは自然現象という観点から、理科のうちの地学分野の関連する単元で扱われている。しかし、これら自然災害に如何に向き合っていくかについては、地学分野では取り上げられていない。 学校教育の中で防災(人為災害を含む)が取上げられているのは、中学校の「技術・家庭」の中の「家庭」分野、高等学校の「家庭」(家庭基礎・家庭総合)である。家庭科は、衣生活・食生活・住生活を中心として、環境への配慮なども含め、安心・安全な家庭生活や社会生活を送るための知識を扱う科目である。防災・減災については、「住生活」の単元の中で扱われる。そこで、中学校・高等学校の家庭科の現行教科書について、防災関係の内容を精査し、現在の防災教育の全体像を把握の上で、その問題点、特に沖縄県内での防災教育の現状を抽出した。またその作業を通して、全国版とは異なり、亜熱帯域に位置する島嶼県である沖縄県に特有な防災教育のあるべき姿を考察した。防災教育のキーワードとしては、①自然災害の認識と具体例、②立地条件や建物の耐震・耐火・耐風性など、③非常持ち出し品など、日常の備え、④情報の入手、家族近隣の人びととの連携など、の4項目が挙げられる。各出版社の高校家庭基礎の9冊の教科書については、以上の4つの視点の記載の有無を調査した。①は9冊中7冊で、②は9冊、③は4冊、④は7冊で記載があった。これから、①、②、④については、ほぼ全ての教科書で取り上げられているが、③は半数以下であり、余り重視されていないことが明らかとなった。またどの教科書も、防災に関しては1/2ページから、最大で2ページを割くに過ぎないことが実態であった。以上のように、自然災害に対する備えを学校教育で教える体制は、必ずしも充分でないことがわかる。そこで、以下の2点を実践することとした。 第一に、現状では教科書出版社ごとに重みの起き方がまちまちである。過去の巨大地震の記録、地震の発生する仕組みなど、自然災害自体に関する詳細な記載がされている教科書は少ない。加えて、沖縄県域では、これら「全国版」教科書で詳しく扱われない自然災害を警戒する必要があり、県内での小中学校からの正しい防災教育を行うためには、災害の性質と防災技術に関する知識、教育の現状に関する情報、既存の教育の結果として地域住民の持つ防災意識などを結集し、これを分析し、問題点を抽出し、これらの情報より、また、災害に対する衣・食・住の面で必要な「備え」を抽出した上で、県域に特有な防災教育の資料として活用可能なリーフレット(副読本・補助教材)を作成した。またこれを活用し、琉球大学附属中学校で模擬出前授業を実施した。 第二に、平成21年度から開始された教員免許更新制度の中の免許更新講習でも取り上げ、講習を受講する教員が学校教育の場で活用出来るように方向付けを行う必要がある。そこで、東日本大震災の翌年の平成24年度から、「災害に強い沖縄を目指して―自然災害の正しい理解のための教材作りの実践」と題した免許更新講習を行うこととし、琉球大学キャンパスで毎年1回、宮古・石垣地区で隔年に1回ずつ開講した。各回の受講定員は10名とし、主対象は中学・高校の理科・家庭科教員とした、しかし、実際には他教科の教員や小学校教員も多く受講登録し、それぞれ現在担当している学校種・学年を対象とした教材を作成することを最終目標として、出来上がった教材を持ち帰る方式としている。本講演では、これらの結果作成された幾つかの教材についても報告する。