日本地球惑星科学連合2014年大会

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[O-01_29AM2] 防災教育-災害を乗り越えるために私達が子ども達に教えること3

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 503 (5F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立深谷第一高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、中井 仁(なし)、座長:宮嶋 敏(埼玉県立深谷第一高等学校)

12:00 〜 12:30

[O01-06] 災害復興期の医療(要援護者への支援)

*高田 哲1 (1.神戸大学大学院保健学研究科)

キーワード:災害復興期, 支援, PTSD, 障害のある子ども, 家族

はじめに:災害が発生した時、医療従事者は、1)災害発生直後の救命・救急を中心とした対応.2)災害発生後、一定の期間が経過した復興期の対応.と異なった二つの役割を担わなくてはならない。復興期においては、災害後の精神面での対応と共に、老人、子ども、障害者など要援護者に配慮した環境整備とそれに関するシステム作りが重要である。今回の発表では、(1)災害後に就学前の子ども達と母親に見られる心理・行動変化、(2)災害が障害を持つ子どもに及ぼす身体・心理面での影響、(3)海外の災害保健活動への応用について述べたい。1.災害後に乳幼児にはどのような行動上の変化が認められやすいのか。 成人や年長児においては、生命に関わるような出来事に遭遇した後に、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)と呼ばれる状態に陥る場合がある。これは、(1)悪夢、フラッシュバックなどの再体験、(2)トラウマを連想させる状況からの回避、(3)不眠、集中困難などの覚醒の亢進、の3症状が1ヵ月以上続き、日常の生活に支障をきたす状態と定義される。しかし、言語能力や時間の概念が未発達な乳幼児でどのような反応が見られるかは明らかでなかった。私たちは、阪神・淡路大震災後にどのような行動上の変化が乳幼児に見られたかを乳幼児健診の場を利用して調査した。震災6ヵ月後に実施したパイロットスタディ及び過去の研究から22項目が子どもたちに見られやすい行動・身体症状として抽出された。そこで、震災から1年が経過した1996年に8150人の保護者を対象に調査を実施し、これらの項目の症状が自分自身の子どもに認められるかどうかを、「いいえ」、「すこし」、「かなり」、「とても」の4段階にわけて評価していただいた。さらに、住居の被害状況を「被害なし」、「家具のみ被害」、「住宅被害あり;居住可能」、「住宅被害あり;居住不可能」、「完全崩壊・焼失」の5段階に分けて記載していただき、両者の関係を検討した。3年間にわたって追跡調査(1997年:7,639家族 、1998年: 7,690家族)を行ったところ、16項目において、子どもたちの行動と住居の被害状況の間に明らかに有意な相関(P<0.01 )を認めた。子どもの症状の中で、「すぐ怒ったり興奮しやすい」、「よく眠れない」、「暗い所を恐がる」、「地震の話をとても嫌がる」なども住宅の被害状況と相関して陽性率が増加しており、幼児にもPTSD症状と関連した症状が出現することが明らかとなった。2.災害と子育て環境 精神的に傷を残す強いストレスはトラウマと呼ばれている。トラウマは、1)時間と場所が限定されるトラウマ(Event trauma)、2)時間的に継続しているトラウマ(Process Trauma)に分けることができる。母親が感じていた子育て環境についての調査結果から、阪神・淡路大震災では、住居被害の程度の強かった家族ほど、「子どもと一緒に遊ぶ時間」、「ほかのお母さんと話し合う時間 」、「夫と話し合う時間 」が少なく、「子どもの世話をしていて体の疲れを感じること」、「子どもの世話をしていてイライラすること」 が多いことが明らかとなった。これは、被災によって住居を失うなど家庭基盤を喪失した家族ほど、ゆとりのある子育てができなくなることを示している。また、母親自身の心身面への影響についても、住宅被害の程度が強いほど大きく、3年たっても、「突然に震災の出来事がよみがえる」、「物音に驚いてびくっとする」などの症状の陽性率が有意に高かった。子どもたちへの支援には、家族(特に母親)をも含めた支援が必要であると考えられた。3.障害のある子どもたちへの影響 障害のある人々の避難システムの確立は東日本大震災でも大きな問題となった。私たちは、阪神・淡路大震災の2ヵ月後に、特別支援学校、通園施設に通っていた子どもたちとその家族466組を対象とした調査を実施した。家族が気のついた変化としては、知的・情緒障害、身体障害(知的障害との重複障害)ともに、睡眠障害が最も多く、次いで排便、排尿などであった。また興奮やてんかん発作の増悪など専門医による治療を必要とする例も多かった。在宅医療の進歩に伴い、医療介護の対象者は増加している。東日本大震災でも多くの障害児を持つ家族が避難場所の確保に困ったことが報告されている。高齢者を含めた要援護者への災害時支援システムの確立が強く望まれる。4.まとめ(世界の災害保健活動への応用) 復興期の支援では、子どもや障害者など社会的弱者に焦点を置いた取り組みが必要である。世界各地で生じる災害は、その規模や原因、文化背景が少しずつ異なるが、経験の多くは共通する。私たちは東北での復興支援に取り組むとともに、ジャワ島中部地震での被災地に‘子どもの家’を建設して地元の大学と共同運営を続けている。今後、災害時の支援に関して世界各地の専門家と知識を共有することが重要である。