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[O-06_30PO1] 日本のジオパーク

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、住田 達哉(産業技術総合研究所)

18:15 〜 19:30

[O06-P34] 島原半島”バーチャルポスター”ジオツアー~雲仙地獄編~

*大野 希一1 (1.島原半島ジオパーク事務局)

キーワード:島原半島世界ジオパーク, バーチャルジオツアー, 硫酸塩泉, 雲仙地獄, 地熱地帯, 温泉余土

島原半島ジオパークといえば、活火山と災害復興のイメージが強い。しかしそれ以外のジオ的見どころもたくさんある。第2回目は雲仙地獄を紹介しよう。
 雲仙地獄は島原半島のほぼ中央に位置する山間の温泉観光地で、西暦701年に行基が開山したとされている。江戸時代にはキリシタン弾圧の地として本当の“地獄”と化し、明治以降は外国人観光客の避暑地となり、さらに大正時代には日本初の国立公園にもなった。この雲仙地獄を、島原半島ジオパークガイドブックのp.14に掲載されたコースに沿って、さらいて(歩き回って)みよう。
 スタート地点の環境省の施設「雲仙お山の情報館」で、散策路のマップをゲットしよう。駐車場のわきの細い道をすり抜け、テニスコートの間を100mほど歩くと原生沼がある。九州では珍しいミズゴケが生える湿地の周囲には白っぽい泥が見え隠れする。これはなんだろう。
 よくわからないままコースを進むと、ぱっと視界が開けた。旧八万地獄である。
 旧八万地獄は別名“月面地獄”とも呼ばれる。足元に広がる白っぽい泥は、先ほど原生沼周辺で見たものと同じだ。どうやらこの白い泥は、もともと石や地層だったものが、強酸性の温泉水に触れて変質してしてできたらしい。つまり、原生沼周辺も昔は地熱活動があったのだ。旧八万地獄は、“旧”と言われるだけあり、地熱活動はあまり活発ではなく、温泉特有の匂いもしない。しかし、地べたに座ると…暖かい。天然の床暖房だ。ふと脇を見れば、わずかだが温泉も湧いている。地熱活動は衰えたとはいえ、まだまだマグマの熱を感じることができる場所だ。
 地球の熱を感じたら東に進もう。国道57号線沿いに活発な地熱地帯がある。「清七地獄」だ。これは江戸時代初期、長崎の清七というキリシタンが殉教したときにできたと言われている。すぐ隣の小屋で温泉たまごも売られている。名物をほおばりながら先に進もう。
 50mも歩くと、地面から「ピチピチ」と音が聞こえる場所に来た。「雀地獄」という地獄で、地面から出てきてはじける泡の音を、スズメのさえずりに例えて名付けたという奥ゆかしい地獄である。「スズメにとっての地獄」という意味ではない。
 “スズメのさえずり”を聞きながら細い遊歩道を抜けると、再び視界が開けた。目の前で熱水と火山ガスが地面から激しく噴きあがっている。まさに地獄だ。この地獄には、サスペンスドラマのようなエピソードが残されている。昔、お糸という美しい女に惚れた薬売りが、お糸に付きまとった。しかしお糸には意中の人がおり、この薬売りをうとましく思っていた。やがて薬売りは行商に出向き、お糸は意中の人と結ばれた。しかし、幸せに暮らしていたお糸のところにふと戻ってきた薬売りが、その光景を見てお糸に詰め寄った。身の危険を感じたお糸は、夫と共謀してこの薬売りを殺めてしまう。これが明治3年に起きた「お糸事件」である。その後、お糸は島原市内の今村刑場にて処刑されたが、その年に湧き出したと言われるのが、目の前の「お糸地獄」である。
 展望台で写真を撮った後、さらに東に進む。地獄の最東端は最も地熱活動が激しい場所で、轟音を立てて煙が地面から激しく噴き出し続けている。「大叫喚地獄」と呼ばれるのもうなづける。大叫喚地獄を過ぎ、足湯広場でぬるめの足湯を楽しみ、雲仙お山の情報館まで戻ってきて、ジオさらくは終了となった。
 辿ったルートをおさらいしよう。地熱活動の痕跡だけが残る「原生沼」、地熱活動が軽微な「旧八万地獄」、江戸時代初期にできた「清七地獄」、明治初期にできた「お糸地獄」、そして最も活動が激しい「大叫喚地獄」。これらの地熱地帯は、地図上ではほぼ一直線に並ぶ。また地熱活動の中心は、年代を追って南西から北東に移動しているように見える。このことから、雲仙温泉は地下の断層を伝って上昇してきた硫化水素や二酸化硫黄を含む高温の火山ガスが、地表水と混ざってできた硫酸塩泉で、通り道が目詰まりしたら次の場所から噴き出る、というプロセスを繰り返して現在に至ってきたといえる。地下から供給される火山ガスの量に対して地下水の量が少ないため、強酸性の火山ガスが直に噴き出てくる場所もある。それが岩石や地層を真っ白い温泉余土に変える。この火山ガスは植物の生育も阻害するため、硫黄の匂いが漂う荒涼とした“地獄”ができるのだ。
 温泉街にあるお地蔵さんは、首が繋がれているものがほとんどであるほか、首がないものも多い。また、地獄の中にはこの地で殉教したキリシタンを弔う十字架も建てられている。ふとした景色の中にも、キリシタン大名と雲仙の山で過ごす修行僧と間に起きた激しい戦いや、キリシタン弾圧の悲劇が見え隠れする場所だ。
 名物”湯せんぺい”を食べながら、次のジオサイトに向かおう。