18:15 〜 19:30
[O06-P41] ゆざわジオパークにおける稲作と文化
キーワード:ジオパーク, 湯沢市
ゆざわジオパークは、2012年に日本ジオパークの認定を受けた。認定時、日本ジオパーク委員会から、「今後の課題、改善すべき点」として、「「ゆざわ」の大地全体の成り立ちを背景にした人々の歴史や今の暮らしを、多くの人たちに伝えるためのジオパーク全体のストーリーを、検討することが必要である」という指摘を受けた。その指摘を受け、湯沢市ジオパーク推進協議会では、ゆざわジオパークの全体ストーリーについて検討する「ストーリー構築委員会」を立ち上げ、2013年1月から2013年8月にかけて全5回の委員会の開催し、ゆざわジオパークの全体ストーリーとそれに沿ったキャッチコピーを作成した。キャッチコピーは、「いにしえの 火山のめぐみ あつき雪 いかして築く 歴史と暮らし」という短歌調のものに決定した。
このコピーに含まれる文言のうち、「いにしえの火山のめぐみ」については、日本ジオパーク認定前から常に意識されてきたテーマであり、院内銀山に代表される多くの鉱山や、温泉や地熱を利用した産業、地熱発電などをジオパークの素材として取り入れてきた。一方で、「あつき雪」についてはほとんど取り上げられておらず、「歴史と暮らし」についても、ゆざわジオパークの活動で上手く取り入れることができていなかった。各ジオサイトのなかでジオポイントとして取り上げられてはいるものの、それぞれ別個に取り上げられているに留まり、ゆざわジオパーク全体での位置づけなどはされていなかった。
ゆざわジオパークを含め、多くのジオパークでは地質学を中心とした地球科学の観点から、地域にあるものへのアプローチを進めている。その一方で、歴史学や民俗学、文学などの文化研究からのアプローチは、まだ十分でないように思われる。本発表では、文化研究からジオパークへのアプローチを試みる。具体的には、ゆざわジオパークのなかで伝えられてきた慣習・信仰を取り上げ、それらのものと地球の動きとの関係を示してみたい。
ゆざわを含んだ横手盆地一帯は、秋田県のなかでも有数の稲作地帯となっている。ゆざわでは、現在も稲作を中心した農業に従事する人の割合が高い。そのため、豊作を祈るための信仰が多く行われていた。湯沢市の北西部にある東鳥海神社は、豊作祈願のための神社として、秋田県南部を中心に広く信仰されていた。現在は以前ほど多くの参拝者はないものの、エビスダワラの奉納も行われている。また豊作を祈るための予祝の行事も広く行われていた。小正月に行われていたものとして、「雪中田植え」と「鳥追い」の行事があった。雪中田植えは、サツキなどとも呼ばれ、雪の積もった田のなかに稲藁と豆殻とを実った稲に見立てて植え、農作物や魚、神酒を供えて、翌秋の豊作を祈った。これは、豊作のようすを再現し、それが実際に起こることを祈ることから、予祝儀礼の一種と考えられる。
ゆざわでは、稲作を行った際の副産物である稲藁を用いて、さまざまなものを作る文化が現在も残されている。稲藁は、生活のさまざまな場面で利用されていた。たとえば、米を入れる俵は、藁を用いて編まれている。また、日常生活で使用する草鞋や笠や蓑、縄などにも使用された。ゆざわをはじめとする積雪のある地域では、藁を用いた靴も作られていた。
日常生活に用いるものを作る一方で、信仰に関するものも多く作られた。神社に奉納されるエビスダワラやしめ縄も、藁を使って作られている。また、ゆざわで見られるものとして、村境に藁を使った人形を飾る民俗がある。その代表的なものとして、ジオサイト「岩崎」にあるカシマ様が挙げられる。同様の藁人形を祀る風習は、ゆざわの各所に見られる。湯沢市の南部・旧雄勝町(御返事・三ツ村・野中)では、全身が藁で作られた人形が作成されている。御返事の人形は、2メートルほどの人形であるが、コロモガエ(藁人形を作りなおす作業)が行われた後に、地域の若者がそれを担いで各家を回る行事が行われている。湯沢市の北東部にあたる旧稲川・皆瀬地域では、ニンギョウ様と呼ばれる人形が飾られている。この地域の人形は、50センチほどの高さの石に、藁で作った兜や腰巻などを飾り付けて作られている。
ゆざわでは現在も稲作が現在も盛んに行われているため、これらの稲藁を用いたものづくりの文化が多く残されていると考えられる。ゆざわは含めた奥羽山脈の西側の諸地域では、春から秋にかけて冷たく湿った季節風を奥羽山脈がさえぎるため、日照時間の減少や気温の低下が起こりづらく、冷害になりにくい。そのために長い間稲作を中心にした生活が営まれ、それに伴う文化も伝承されてきたのだと考えられる。
このコピーに含まれる文言のうち、「いにしえの火山のめぐみ」については、日本ジオパーク認定前から常に意識されてきたテーマであり、院内銀山に代表される多くの鉱山や、温泉や地熱を利用した産業、地熱発電などをジオパークの素材として取り入れてきた。一方で、「あつき雪」についてはほとんど取り上げられておらず、「歴史と暮らし」についても、ゆざわジオパークの活動で上手く取り入れることができていなかった。各ジオサイトのなかでジオポイントとして取り上げられてはいるものの、それぞれ別個に取り上げられているに留まり、ゆざわジオパーク全体での位置づけなどはされていなかった。
ゆざわジオパークを含め、多くのジオパークでは地質学を中心とした地球科学の観点から、地域にあるものへのアプローチを進めている。その一方で、歴史学や民俗学、文学などの文化研究からのアプローチは、まだ十分でないように思われる。本発表では、文化研究からジオパークへのアプローチを試みる。具体的には、ゆざわジオパークのなかで伝えられてきた慣習・信仰を取り上げ、それらのものと地球の動きとの関係を示してみたい。
ゆざわを含んだ横手盆地一帯は、秋田県のなかでも有数の稲作地帯となっている。ゆざわでは、現在も稲作を中心した農業に従事する人の割合が高い。そのため、豊作を祈るための信仰が多く行われていた。湯沢市の北西部にある東鳥海神社は、豊作祈願のための神社として、秋田県南部を中心に広く信仰されていた。現在は以前ほど多くの参拝者はないものの、エビスダワラの奉納も行われている。また豊作を祈るための予祝の行事も広く行われていた。小正月に行われていたものとして、「雪中田植え」と「鳥追い」の行事があった。雪中田植えは、サツキなどとも呼ばれ、雪の積もった田のなかに稲藁と豆殻とを実った稲に見立てて植え、農作物や魚、神酒を供えて、翌秋の豊作を祈った。これは、豊作のようすを再現し、それが実際に起こることを祈ることから、予祝儀礼の一種と考えられる。
ゆざわでは、稲作を行った際の副産物である稲藁を用いて、さまざまなものを作る文化が現在も残されている。稲藁は、生活のさまざまな場面で利用されていた。たとえば、米を入れる俵は、藁を用いて編まれている。また、日常生活で使用する草鞋や笠や蓑、縄などにも使用された。ゆざわをはじめとする積雪のある地域では、藁を用いた靴も作られていた。
日常生活に用いるものを作る一方で、信仰に関するものも多く作られた。神社に奉納されるエビスダワラやしめ縄も、藁を使って作られている。また、ゆざわで見られるものとして、村境に藁を使った人形を飾る民俗がある。その代表的なものとして、ジオサイト「岩崎」にあるカシマ様が挙げられる。同様の藁人形を祀る風習は、ゆざわの各所に見られる。湯沢市の南部・旧雄勝町(御返事・三ツ村・野中)では、全身が藁で作られた人形が作成されている。御返事の人形は、2メートルほどの人形であるが、コロモガエ(藁人形を作りなおす作業)が行われた後に、地域の若者がそれを担いで各家を回る行事が行われている。湯沢市の北東部にあたる旧稲川・皆瀬地域では、ニンギョウ様と呼ばれる人形が飾られている。この地域の人形は、50センチほどの高さの石に、藁で作った兜や腰巻などを飾り付けて作られている。
ゆざわでは現在も稲作が現在も盛んに行われているため、これらの稲藁を用いたものづくりの文化が多く残されていると考えられる。ゆざわは含めた奥羽山脈の西側の諸地域では、春から秋にかけて冷たく湿った季節風を奥羽山脈がさえぎるため、日照時間の減少や気温の低下が起こりづらく、冷害になりにくい。そのために長い間稲作を中心にした生活が営まれ、それに伴う文化も伝承されてきたのだと考えられる。