日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG38_1AM1] 惑星大気圏・電磁圏

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 423 (4F)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、関 華奈子(名古屋大学太陽地球環境研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(惑星科学研究センター)、深沢 圭一郎(九州大学情報基盤研究開発センター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)、座長:高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)

10:30 〜 10:45

[PCG38-07] 簡易金星大気大循環モデル高解像度計算の運動エネルギースペクトル

*樫村 博基1杉本 憲彦2高木 征弘3大淵 済4榎本 剛5高橋 芳幸6林 祥介6 (1.宇宙研、2.慶應大、3.京産大、4.海洋研究開発機構、5.京大防災研、6.惑星科学研究センター/神戸大)

キーワード:金星大気, 大循環モデル, 高解像度, 運動エネルギースペクトル

惑星規模の高速東西風「スーパーローテーション」をはじめ,金星大気の力学はほとんど解明されていない.有効な観測データが不足している一方, 大気大循環モデル (GCM; General Circulation model) によるシミュレーション研究が盛んになりつつある.しかし,自転の遅さのために解が統計的平衡状態に達するまでに長期間の時間積分が必要になり,低解像度 (T21 〜 約5.6°×5.6°格子) の計算に止まっている.我々は,AFES (Atmospheric GCM for the Earth Simulator) の簡易金星版を開発し (Sugimoto et al. 2012),これまでにない高解像度計算 (T159 〜 約0.75°×0.75°格子) を実施した.本発表では,高解像度計算で得られた運動エネルギースペクトルの特徴について報告する.モデルは水平解像度 T159,鉛直解像度 L120 (Δz = 約1 km) とし,日変化を含む太陽加熱を与えた.放射冷却は水平一様なニュートン冷却で簡素化したが,観測によって示唆されている低安定度層を導入した.湿潤過程は省略して,乾燥大気として計算した.計算安定のために重調和作用素(Δ2)で表される水平超粘性を導入し,切断波数に対する緩和時間を0.01日とした.鉛直渦粘性係数は 0.15 m2 s-1とした.大気上端での波の反射を防ぐため,スポンジ層を高度80 kmより上空に設置した.静的不安定を抑制するために乾燥対流調節を導入した.初期値として剛体回転の高速東西風とそれに傾度風平衡する温度場を与え,時間積分を統計的平衡状態に達するまで行った.平衡状態は観測が示唆するスーパー ローテーション構造と類似していた.鉛直渦度・水平発散のスペクトル係数から計算される単位質量単位波数当たりの水平運動エネルギー (Koshyk & Hamilton 2001) を求めた.中間的な波数(n = 4 〜 45)において,運動エネルギーは波数に対して --5/3 乗則を示した.より低波数側及びより高波数側ではより大きな(両対数表示での)傾きを示した.地球大気の航空機観測やGCM計算のエネルギースペクトル解析 (Nastrom & Gage 1985; Takahashi et al. 2006) で見られる特徴は「低波数領域 (n < 80) で --3 乗則,高波数領域で --5/3 乗則」である.Terasaki et al. (2011) は,前者は総観規模でロスビー波が卓越するためであり,後者はメソスケールで重力波が卓越するためだとしている.本研究で得られた簡易金星版AFESのエネルギースペクトルは --5/3 乗則の領域が地球大気の場合よりも低波数側にあり,金星では重力波が1万 〜 数千kmスケールでも卓越していることを示唆している.このスケールでロスビー波が卓越しないのは,地球の場合よりも自転角速度が小さく,コリオリ項が卓越しないからであろう.また,切断波数に近くで傾きが大きくなっているのは,水平超粘性が影響が表れているものと考えられる.[謝辞] 本研究は地球シミュレータ利用課題『AFES を用いた地球型惑星の大気大循環シミュレーション』のもとで実施しました.