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[PCG38-08] 偏光撮像装置“HOPS”により観測された金星上層ヘイズの微物理特性
キーワード:金星, ヘイズ, 偏光撮像解析, 放射伝達解析
可視光域における金星の非常に高い反射能は惑星全体を覆う光学的に厚い主雲層によるが、それより上層に広がる微粒子(ヘイズ)は1978年末に金星に到着したPioneer Venus Orbiter (PVO)の観測から発見された。Kawabata et al. [1980] はPVOのOrbiter Cloud Photopolarimeter (OCPP) による偏光観測データを解析し、極域の主雲層より上、高度70から90kmにかけてサブミクロンサイズのヘイズ粒子が大量に分布していることを初めて示した。ヘイズ層の光学的厚さがPVO観測期間中に減少していること [Sato et al., 1996] やSO2存在量も同じ時間スケールでの減少傾向が見られ、両者の間に相関があることが報告されている [Esposito, 1985]。しかしPVO以降はヘイズをモニターする継続的研究は無く、SO2存在量との相関がその生成・維持メカニズムにとって何を表すのかや、現在も同じような相関があるのかは不明である。本研究はその最新の微物理情報を提供するため、PVO以降行われていない金星上層ヘイズのモニタリング観測を地上から行うものである。 金星上層ヘイズの分布状況をモニターするために、我々は偏光撮像装置“HOPS”(Hida Optical Polarimetry System)を改修し、京都大学飛騨天文台の65cm屈折式望遠鏡に取付けて観測を行った。HOPSによる観測では偏光度を金星面上のマップとして取得することが出来るので、過去の観測などと比較するために対象とする領域に対応するピクセルの偏光度を観測後に積分して計測することが可能である。これは過去の光電測光観測に対する撮像観測の最大の利点である。HOPSは2線束タイプの光学系を採用しており、観測時間中の大気透明度の変動や、CCDピクセル間の感度ムラ、光線の分離効率の違いなどを画像処理の過程で除去することによって、変動する大気条件に対して高精度の観測が可能である。観測は金星の太陽位相角が約39度(2013年7月), 56度(2013年8月), 58度(2012年10月), 85度(2012年8月), 129度(2012年5月)という条件の時に行った。観測波長は438nm (B), 546nm (G), 650nm (R), 930nm (IR)で、GとIRデータはPVO/OCPPの類似波長データと直接比較することが可能である。偏光度マップの極域(緯度60度より高緯度)を積分しPVO/OCPPの報告と比較したところ、特にIRデータにおいて明瞭な差異が認められた。すなわち、偏光度が0%となる中立点位相角の位置がPVO/OCPPデータにおいては40度周辺にあるのに対し、HOPSデータでは75度周辺に移動していた。この違いはヘイズ分布が当時とは異なることを示唆するものである。 得られた偏光データの解析を行うために、Adding-Doubling法 [de Haan et al., 1987, Hovenier et al., 2004] を採用し、ストークスパラメータをフルに扱う放射伝達計算コードを開発した。主雲粒子のMie散乱断面積が7μm2 程度であるのに対し、IR, R, G, BにおけるRayleigh散乱断面積は0.21, 0.083, 0.041, 0.0096μm2 程度であるので、IR, R, Gの3波長はRayleigh散乱の影響を無視して解析することが出来る。自由パラメータは上層ヘイズに関して有効半径reffと光学的厚さτhとした。ヘイズの有効分散は0.18に固定し、主雲層のパラメータはHansen and Hovenier [1974]にしたがった。またヘイズ主雲共に、一次散乱アルベドを1と仮定している。その結果として、北南極域に関してそれぞれreff=0.22μm, 0.20μm, τh = 0.09, 0.05という値を得た。光学的厚さはPVO初期観測期間に得られたτh = 0.25に比べて小さいが、同探査機観測期間中に見られた光学的厚さの比較的薄い時期と近い値である。Venus Expressによって観測されている同時期のSO2存在量は減少が続いたのちの低い値を示しており [Marcq et al., 2012]、SO2存在量との相関があるという報告とも整合的な結果である。