日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM31_1PM2] プラズマ宇宙:原子分子過程,ダスト,弱電離,プラズマ応用

2014年5月1日(木) 16:15 〜 17:30 503 (5F)

コンビーナ:*松清 修一(九州大学大学院総合理工学研究院流体環境理工学部門)、犬塚 修一郎(名古屋大学大学院理学研究科)、座長:犬塚 修一郎(名古屋大学大学院理学研究科)

16:15 〜 16:30

[PEM31-03] イオン輝線による原始惑星系円盤雷の観測

*村主 崇行1秋山 栄治2犬塚 修一郎3野村 英子4奥住 聡4 (1.京都大学、2.国立天文台、3.名古屋大学、4.東京工業大学)

キーワード:原始惑星系円盤, 放電現象, 雷, 弱電離プラズマ, 天体プラズマ

原始惑星系円盤における雷は原始惑星系円盤科学における重要な素過程である。円盤雷はコンドリュール形成の候補メカニズムとして、また原始惑星系円盤の電磁的状態を観測するための手法の一つとして研究されてきた。そこで、原始惑星系円盤において雷を引き起こしうる複数のモデルが提案されており、そのいずれが正しいかを観測的に区別することは原始惑星系円盤を物理的に理解するうえで極めて重要である。本発表では、我々は原始惑星系円盤における雷モデルを観測的に区別する可能性について研究した。地上の雷は空気中における放電現象であり、空気中における放電現象は、世紀に渡る研究の歴史があり確立された物理である。しかし、観測的には地上の雷は空気の絶縁耐力よりも1-2ケタ低い電場ですでに発生することが知られており、この事実は長い間雷研究の謎のひとつであった。(ここで、絶縁耐力とは、物質が絶縁破壊を起こさずに耐えられる電場の強さの最大値のことである。絶縁耐力は放電物理の中心となる物性値である。)この謎を解くために、伝統的なTownsend放電モデル以外にも、新たにDruyversteyn-Penning放電モデルやランナウェイ放電モデルが提案されてきた。この2つのモデルによって導かれる絶縁耐力の値はTownsend放電モデルが予言する値よりもずっと小さい。この絶縁耐力の値を測定することにより、放電モデルを区別することができる。絶縁耐力とは、電場によって加速された電子が一定の電離エネルギーに達する点であると解釈することができる。ところで物質に印加されたこの電場は、その物質にふくまれる正イオン粒子をも加速する。放電を引き起こすのに必要な電離エネルギーは一定であるから、イオンが加速によって達するエネルギーも一定である。これは、観測的には、諸イオンの速度は熱速度では説明のつかないほどの高速にあり、かつその速度は雷領域にわたって一定で、局所的な密度や温度にはよらないことを意味する。このようなきわだった性質は、放電現象の存在を証明し、また放電モデルを区別するためのまたとない観測的特徴といえる。たとえば、体積分率92%の水素分子と8%のヘリウムからなる円盤ガスを考えた場合の、HCO+イオンについてこの特徴速度は、Townsend放電モデル、Druyversteyn-Penning放電モデル、runaway放電モデルについてそれぞれ7.1km/s、2.9km/s、0.49km/sである。我々は、HCO+, DCO+ and N2H+という三種類のイオン種について、雷モデルを考慮に入れた速度分布を計算し、それをもとにラインプロファイルおよび2次元P-V図をシミュレートした。その結果、ラインプロファイルにおいて、雷モデルごとに決まる速度領域に、10-100mJy程度の特徴が現れることがわかった。Mathews et al. (2013)や Qi et al. (2013)によれば、ALMAによって10mJy程度の感度のイオン観測結果が報告されているので、ALMA公開データにもとづいて一部の雷モデルを棄却したり、将来観測において雷モデルを識別できる可能性があることがわかった。