日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM33_1AM1] プラズマ宇宙:観測・実験の計画・手法,装置開発,プラズマ計測

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 503 (5F)

コンビーナ:*松清 修一(九州大学大学院総合理工学研究院流体環境理工学部門)、杉山 徹(独立行政法人海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター)、座長:杉山 徹(独立行政法人海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター)

09:00 〜 09:25

[PEM33-01] 宇宙論的な銀河の落下現象:その発見、プラズマ物理学的な意味、およびASTRO-H衛星を用いた検証

*牧島 一夫1 (1.東京大学理学系研究科物理学専攻)

キーワード:銀河と銀河団, 銀河団プラズマ, X線放射, 磁気プラズマ過程, ASTRO-H衛星

星々の集団である銀河は、数百個が重力的に集まり「銀河団」を構成する。それら銀河団は天体の階層構造の頂点をなす存在だが、それらは単なる銀河の集団ではなく、いずれの銀河団でも質量の約85%は暗黒物質で、星々の質量はわずか数%に過ぎない。残る約10%強はX線を放射するプラズマ (以下ICM = Intra Cluster Medium) である。ICMは宇宙の既知のバリオンの最大の成分であり、密度は103 m-3 程度、温度は数千万度から1億度で、広がった強い熱的X線を放射する。この温度は暗黒物質の作る重力ポテンシャルの深さに対応するので、ICMは宇宙の構造形成のさい、断熱圧縮され高温になったと考えられる。ICMは高温で低密度なため、平均粒子間隔は~0.1m、デバイ長は~10 km、電子平均自由行程は~1018 m と、理想的な古典的プラズマである。そこには~10-10 T の磁場が存在し、プラズマβは100のオーダーとなる。実験室プラズマには無い顕著な特徴として、ICMは暗黒物質の重力により安定に閉じ込められている。 銀河団の中心部ではICMの密度が高いため、宇宙年齢の間にはICMがX線放射で冷え、圧力低下をきたすと計算される。すると周辺からICMが重力により落下し、中心部でICMの密度が上がってさらに冷却が進むであろう。その結果、ICM中には「cooling flow」と呼ばれる暴走的な冷却が生じると考えられ、実際1980年代から、それを支持すると考えられるX線の観測結果が続々と報告されてきた。 我々はX線で銀河団の観測を続け、1993年には自ら開発製作したガス蛍光比例計数管を日本4機目のX線衛星「あすか」に載せて銀河団の観測を行った。その結果、銀河団の中心に向けICMは温度低下を示すが、決して暴走的に冷えておらず、未知の加熱源があることを発見した。それを説明するため我々は、(1)中心の巨大楕円銀河は閉じた磁気圏と開いた磁力線領域をもち、低温プラズマは磁気圏内部に閉じ込められ、(2) 銀河団空間を飛び回る銀河たち(中心銀河を除く)はICMから抵抗を受けてICM中に磁気乱流を作り出し、(3)そのエネルギーが磁気波動や磁気リコネクションで低温プラズマを加熱し、(4)二相のプラズマは太陽コロナと同じくRosner-Tucker-Vaiana機構で熱的に安定化され、(5)銀河たちはエネルギーを失いポテンシャル中心に目がけ徐々に落下するはず、というプラズマ物理学的な描像を提示した (Makishima et al., Publ. Astro. Soc. Japan 53, 401, 2001)。この描像はその後、様々な形で強化され、たとえば2009~2012年には(1)の確証が得られた。 さらに昨年、(5)を決定づける観測結果が得られた。すなわち近傍銀河から赤方偏移0.9までの34個の銀河団を、X線と可視光で観測した結果、近傍銀河ではX線放射ICMに比べて銀河が中心に集中するのに対し、遠方(つまり若い)銀河団では、銀河がICM球の周辺まで分布していることが検証できたのである (Gu et al., Astrophys. J. 767, id 157, 2013)。この「宇宙論的な銀河落下現象」の発見は、単にICMの加熱源を説明できるだけでなく、「銀河がICM中を運動しても両者の間には相互作用は無い」とする従来の通説を覆すインパクトをもち、さらにこれまで認識されなかった、宇宙で最大級のエネルギーの流れを発見したことを意味する。加えて、近傍の銀河団では暗黒物質よりも銀河たちは中心に強く集中し、ICMがやや広がるという既知の事実を自然に説明でき、ICMの中に太陽組成の1/3ほどの重元素を含むという事実も、銀河がICMと強く相互作用することで説明できる。さらに銀河天文学で長らく謎だった「環境効果」、つまり過去より現在ほど、また銀河団の中心にゆくほど、渦巻き銀河が減り楕円銀河が増えることも、ICMとの相互作用に起源を求めることができそうである。 我々は現在、2015年の打ち上げに向け、X線衛星ASTRO-H を全世界的な協力で開発中である。同衛星が軌道に乗った暁には、従来より1桁よいエネルギー分解能を誇る軟X線精密分光計で、運動する銀河がICMを局所的にひきずるドップラー効果を検出できると期待され、我々の描像がさらに決定的になると期待される。さらに我々が開発に貢献している硬X線イメジャーや軟ガンマ線検出器を用いることで、銀河が失った力学的エネルギーが、プラズマ加熱だけでなく粒子加速をも引き起こす可能性を、本格的に探査できるようになり、宇宙X線の研究領域大きく拡大すると期待される。