11:30 〜 11:55
★ [PEM34-01] 惑星間空間から星間媒質へ広がる宇宙空間プラズマ観測の最前線
キーワード:太陽風プラズマ, 惑星間空間シンチレーション, 太陽圏, 恒星間媒質, 太陽活動周期
太陽は超音速のプラズマ流、太陽風を吹き出すことで星間媒質の中に太陽圏(heliopsphere)と呼ばれる領域を形成している。その広がりは約100AUにも達する。太陽圏の内部ではプラズマと電磁場の相互作用を通じて太陽風の生成、衝撃波の励起・伝搬、高エネルギー粒子の加速などの興味深い物理現象が発生することから、そこは宇宙空間プラズマの実験場として様々な観測研究が展開されてきた。その一つが、惑星間空間シンチレーション(interplanetary scintillation, IPS)を使った太陽風の遠隔測定に基づいた研究である。これまでのIPS観測からは、太陽風のグローバルな分布が太陽活動に密接に関係しながら短期・長期の時間スケールで大きく変動することが明らかになっている(Tokumaru et al., 2013)。現在、太陽圏の観測研究には大きな展開が起こっている。その新展開の一つは、Voyager 1,2(V1,V2)やIBEX探査機による太陽圏境界域の探査によってもたらされた(Gurnett et al., 2013, McComas et al., 2009)。V1は2004年に終端衝撃波を94AUで通過していたが、2012年8月に121AUで太陽圏境界面(heliopuase)に達し、星間空間へ突入した。V2は2007年に83AUで終端衝撃波を通過、目下、heliopauseを目指して航行中である。一方、IBEX衛星は高エネルギー中性原子(ENA)の撮像観測により太陽圏をとりまく大規模なリボン構造の存在が明らかにしている。これらの観測データを解釈しようとするとき不可欠となるのが、太陽圏境界域の3次元構造に関する情報である。先述したIPS観測からは内部太陽圏における太陽風のグローバルな分布が得られることから、そのデータに基づいたMHDシミュレーションにより太陽圏境界域の構造を精度よく決定することができる。このIPS観測による太陽圏シミュレーションデータをVoyagerやIBEXの研究チームに提供することで、太陽圏境界域の共同研究が進められている。もう一つの新展開は特異な太陽活動の到来によってもたされた。今サイクルは太陽活動が過去100年来の低調さであり、これに伴って太陽風密度の顕著な低下や高速風・低速風の分布が従来と異なるなどの変化が起きていることがIPS観測から判明している(Tokumaru et al., 2009, 2010, 2012)。この事実は太陽圏境界域や惑星磁気圏への影響(宇宙天気)に関する研究において重要である他、太陽風加速機構の謎を解く手がかりを与える。また、今回の特異な太陽活動における観測結果は、17世紀のマウンダー極小期における地球寒冷化の謎を解明する手がかりともなる。数年後に予想されるV2の星間媒質への到達により、太陽圏を取りまく星間プラズマ雲(Local Interstellar Cloud)について詳細な議論が可能になるだろう。太陽圏はLocal Bubbleと呼ばれる低密度(但し高β)な領域内にあり、そのプラズマ特性についてパルサー電波観測などから議論されている(Spnaglar, 2009)。今後はLocal Bubbleと太陽圏を一体とした領域で、探査機の直接測定と地上からの電波観測を組み合わせた宇宙空間プラズマの研究が発展しゆくであろう。