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★ [PEM35-02] 京を用いた磁場連星中性子星合体の数値相対論シミュレーション
連星中性子星は、中性子星で構成される二重連星であり現在までに9個観測されている。連星中性子星は重力波放出によって、軌道エネルギーと軌道角運動量を徐々に失い、最後には合体に至る。観測されている連星中性子星の内、6個は宇宙年齢以内合体すると見積もられている。合体時に放出される重力波は2017年頃から本格稼働する地上型重力波干渉計KAGRAやadvanced LIGO, advanced VIRGOで年間10回程度観測可能であり、重力波が直接観測されれば、強重力場における一般相対性理論の検証、中性子物質の状態方程式の検証が可能になる。さらに、連星中性子星合体はショートガンマ線バーストと呼ばれる突発的高エネルギー天体現象の有力な駆動源候補であるが、重力波観測によるこの仮説の検証も可能になるかもしれない。さらに、鉄より重い元素の合成現場は超新星爆発であるというのが通説であったが、最新の超新星爆発の理論研究によるとその可能性は極めて難しくなっているため、連星中性子星合体は重元素合成の有力なサイトとして近年精力的に研究されている。このような背景のもと、連星中性子星合体過程の理論的解明は重要な研究課題となっている。連星合体は典型的に密度が10の15乗グラム毎立方センチメートル、温度が10の10乗度に達する現象であるため、解析的取り扱いは破綻し数値モデル化が必須になる。我々のグループではこの問題に対して数値相対論を用いて取り組んでいる。数値相対論とは、一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式並びに流体方程式、ニュートリノ輻射輸送を連立させて数値的に解くことで強重力場の現象を理論的に解き明かすことを目的とした研究分野である。パルサーの観測により中性子星が一般に10の12乗程度の磁場を保持していることが観測的に確立しているが、さらに10の14乗もの強磁場を持つ強磁場中性子星の存在が観測的に示唆され注目を浴びている。しかし、連星合体過程で磁場がどのような役割を果たすかは良く分かっていない。合体過程では様々な流体不安定性が磁場の増幅機構となり得るが、この種の不安定性は短波長であるため、高解像度数値シミュレーションが必須になる。既存のシミュレーションでは不安定モードを十分に解像出来ているとは言い難く、科学的結果に疑問が残る状況であった。我々はスーパーコンピューター京を使用することで世界最高解像度のシミュレーションを実行し、連星中性子星合体過程における磁場の役割を明確にした。以下に合体過程と磁場増幅機構を項目別に記す。(1) 連星合体時の接触面におけるケルビンーヘルムホルツ不安定性連星合体時には互いの星表面付近で速度差が生じるためケルビンーヘルムホルツ不安定になる。その結果、渦が生じるが、線形解析によるとより短波長のモードが大きな成長率を持つことが分かる。磁場が存在すると渦によって磁力線が引き延ばされるため磁場が増幅すると考えられているが、今回我々のグループはこの磁場増幅が有意に起こることを数値相対論シミュレーションで初めて示した。解像度に対する計算結果の収束性チェックを行うことで、最大磁場が合体の前後で少なくとも30倍近く増幅されることが分かった。既存のシミュレーションで用いられていた解像度では高々増幅率は数倍であり十分な解像度がないと答えを間違うことを示した。(2) 合体後に形成される超大質量中性子星内部における磁気回転不安定性連星合体の後、強い微分回転と熱的圧力に支えられた超大質量中性子星が過渡的に形成される。この星は磁気回転不安定性に対して不安定であるが、高密度/高角速度のため不安定モードは非常に短くなる。我々のシミュレーションでは、このモードによる磁場増幅を解像することに成功した。その結果、超大質量中性子星は10の16乗から17乗程度の強い磁場を持つことが分かった。(3)ブラックホール―降着円盤における磁気回転不安定性と質量放出超大質量中性子星は非軸対称構造に起因する角運動量輸送と重力波による角運動量放出によって、最終的にブラックホールに重力崩壊する。降着円盤内部では磁気乱流による角運動量輸送が起こるとともに、降着円盤表面はケルビン―ヘルムホルツ不安定になる。これらの物理機構で生成された渦がエネルギーを外向きに運ぶことで、円盤風が駆動されることが分かった。本講演ではシミュレーション結果を詳細に紹介する予定である。