日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM36_28PO1] 大気圏・電離圏

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(独立行政法人 情報通信研究機構)

18:15 〜 19:30

[PEM36-P15] 昼間条件下と月明条件下で観測されたリチウム共鳴散乱光の観測と中性風速解析

*木原 大城1柿並 義宏1山本 真行1渡部 重十2Hard Lucas3Larsen Miguel3山本 衛4羽生 宏人5阿部 琢美5 (1.高知工科大学、2.北海道大学、3.クレムソン大学、4.京都大学、5.宇宙科学研究所)

キーワード:観測ロケット, 熱圏, 中性風, リチウム放出装置, 航空機観測

1.はじめに
下部熱圏中性大気風の測定を目的として、2007年9月2日の夕方に熱圏大気中に観測ロケットによりリチウムを放出し太陽光による共鳴散乱光を観測して高度110 km~400 kmにおける熱圏中性大気中性風が測定された(Yamamoto et al., 2008)。2012年1月12日には明け方条件でリチウム共鳴散乱光を観測し、高度127 km~76 kmにおける熱圏中性大気風の測定に成功した。しかし、2011年に実施した米国NASA Wallops実験場での昼間下部熱圏リチウム共鳴散乱光は観測できず、放出の不具合と厳しいS/Nが原因と推定されると、これまでの実験により取得されたデータから昼間条件下と月明条件下におけるリチウム共鳴散乱光による風速測定を目指し、背景光とリチウム雲のS/N推定をJAXAの積分球を用いて行うことで、航空機観測により両条件でのリチウム雲観測の可能性が確認された。
2013年7月4日、リチウム共鳴散乱光を用いて、昼間下部熱圏中性風高度プロファイルの観測を行うロケット実験をWallops実験場で行った。リチウム放出用ロケットをWallopsから南東方向に打上げ、打上げ後65秒から45秒間(高度約90~123 km)にわたりリチウムを放出した。本実験では高知工科大学とClemson大学の観測チームが地上およびNASA航空機からリチウム雲の観測を試みた。
2013年7月20日、リチウム共鳴散乱光を用いて、深夜の月明条件(月齢12)にて下部熱圏中性風高度プロファイルの観測を行うロケット実験を内之浦宇宙空間観測所で行った。23:57:00 JSTにS-520-27号ロケットを南東方向に打上げ、打上げ後497秒から20秒間(高度約120~80 km)にわたりリチウムを放出した。本実験では、高知工科大学と北海道大学、Clemson大学の観測チームが地上とJAXA航空機からリチウム雲の観測を試みた。

2.観測
 日中条件下でのリチウム雲の観測は、Wallops実験場敷地内の1地点に観測点を設け、航空機NASA-8は地上観測地点から南東に約300 km、高度約10 kmの地点から北北東に飛行しつつ太陽を背にする条件でリチウム雲を観測した。リチウム雲撮影用光学機器には、S/N向上のために帯域2 nmのバンドパスフィルタ(中心波長671 nm)を装着した一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X4、Nikon D90)を航空機に3台、地上観測点に2台と、帯域12 nmフィルタ付動画撮影用カメラ(Watec)を航空機と地上観測点に1台ずつ設置し観測した。
月明条件下でのリチウム雲の観測は、JAXA航空機「飛翔」と地上3地点(内之浦、種子島、室戸)に帯域2 nm、12 nmのバンドパスフィルタを装着した一眼レフカメラ、Watecおよび天文用冷却EM-CCDカメラ(BITRAN BQ-87EM)を設置し観測を試みた。

3.結果
日中条件下でのリチウム共鳴散乱光の観測は、航空機から約25分間の観測に成功した。放出直後はロケットの軌道に沿ったリチウム雲が形成されていたが、その後は強い熱圏風の高度シアーによりリチウム雲が複雑な形状に広がっていく様子を観測することに成功した。地上での観測は、ロケット打上げ前よりカメラ視野内が雲に覆われたため、リチウム雲を観測することはできなかった。そのため背景光に対し、昼間にどの程度のS/Nでリチウム雲を観測できるかは推定しかできない。
月明条件下でのリチウム共鳴散乱光の観測は、航空機と地上2地点で約90秒間の観測に成功した。放出したリチウムが早く拡散したことから、その後のリチウム雲を確認することはできなかった。

4.まとめ
2013年7月に打ち上げられた観測ロケットから放出されたリチウムを航空機および地上から観測し、昼間条件下と月明条件下での下部熱圏リチウム共鳴散乱光の観測に成功した。本実験でリチウム共鳴散乱光の観測に成功したことにより時間帯を問わず下部熱圏でのリチウム共鳴散乱光が観測可能であることが確認できた。本発表では、観測された昼間条件下と月明条件下での下部熱圏リチウム共鳴散乱光の発光強度およびS/Nの計測結果と下部熱圏中性大気風の初期解析結果およびその問題点について発表する。

参考文献:
Yamamoto, M.-Y. et al., Thermospheric neutral wind measurement by three rocket-released Lithium clouds: WIND campaign, 37th COSPAR Sci. Assembly, C02-0012-08, p.3528, Montreal, 2008.