18:15 〜 19:30
[PPS02-P03] 惑星大気大循環モデル DCPAM を用いた MELOS1 探査機のための火星表層環境評価
キーワード:火星探査, 大気大循環モデル, 火星表層環境
1. はじめに
現在, わが国の宇宙工学および理学コミュニティにおいて着陸船による生命・表層環境探査を主体とした火星探査計画(MELOS1)の検討が進められている. 計画では, 地表に探査機を降下させ, バイキングが実施した実験よりも 3 桁以上精度を上げた生命探査と, 気温・気圧・風速および大気中のダストを観測対象とした火星表層環境のモニタリングを行うことを目指している. 探査機および搭載する観測機器の設計, および探査機の安全な着地と運用のためには, 着陸予定地点の環境を事前にある程度把握しておく必要がある.
この問題に対し, 我々は大気大循環モデル, 領域気象モデル, ラージエディシミュレーションモデルの計算結果を基に, 惑星規模から大気境界層スケールにいたる火星表層環境に関する情報を提供すること目指している. メソスケールから大気境界層スケールの環境評価は, 名古屋大学水循環研究センターで開発された CReSS および理化学研究所で開発された SCALE-LES を用いて行うとし, 現在両モデルの火星大気へのチューニング作業と予備的な数値実験を行っている(杉山 他 2013; 西澤 他 2013). 惑星規模スケールの環境評価は地球流体電脳倶楽部にて開発されてきた惑星大気大循環モデル DCPAM (高橋他 2012) を用いる. 本研究では, DCPAM の計算結果とバイキングおよびマーズパスファインダーの観測結果とを比較し, それに基づいて大気大循環モデルのデータを用いた適切な環境評価方法の検討を行う. 次にその方法を用いた探査機の着陸候補地点における環境評価の結果について示す.
2. 使用するデータ
DCPAM はスペクトル法を用いた大気大循環モデルであり, 大気放射等の物理過程は火星に対応したものを組み込んでいる. 地表面のアルベドおよび熱慣性の値はマーズグローバルサーベイヤーの観測結果に基づいている. 水平切断波数は 31 で対応する水平格子間隔は約 200 km である. 鉛直層数は 36 層で, 最下層の高度は約 3 m である. モデルにはマーズグローバルサーベイヤーで観測された平均的なダストの時空間分布を与え, 等温静止状態初期条件とし 7 火星年計算を行う. 解析にはその最後の 2 年分の結果をもちいた.
解析する物理量は 3 つの着陸候補地点(ニュートンクレータ, ニリ渓谷, イシディス平原)における地表面温度と地表気圧, 高度 1 m の気温と水平風速, 地表における太陽放射直達成分, 太陽放射散光成分, 空温度(下向き赤外放射量に対応する黒体温度)である. これらのデータが探査機の設計に必要とされている. 解析期間は現在想定している 4 つの到着時期(Ls = 331, 324, 14, 135)から 90 火星日で, 到着後から 15 火星日毎の各物理量の日変化を調べる.
3. 解析方法の検討と結果
モデルの結果をバイキングおよびマーズパスファインダーとの観測結果と比較する際の問題は, モデルの最下層の高度が観測高度と異なること, モデルの格子スケールで平均した標高は実際の標高とは異なることである. そこで, 気温と風速は地表付近で中立成層を仮定した相似則が成り立つと仮定して観測高度における値を評価し, 地表気圧についてはモデルで計算された気温に対応するスケールハイトを用いて実際の標高における気圧を評価する. 比較の結果, 気温についてはモデル第 2 層(高度約 12.5 m)の計算結果を用いて高度補正を行うと, 観測された気温の日変化をよく再現することがわかった. 気圧についてはモデル第 10 層(高度約 1.35 km)の気温で与えられるスケールハイトを用いて高度補正を行い, さらに全体として 60 Pa 差し引くと観測される気圧の年変化をおおむね再現することが確かめられた.
以上の結果に基づき, 3 つの着陸候補地点の 4 つの探査期間におけるデータの解析を行った. 第 1 候補地点であるニュートンクレータ (202.5E, 42.7S) の Ls = 331 からの期間については, 探査機の熱設計に必要な物理量に着目すると, 日平均気温は 190 - 220 K で日変化の振幅は約 50 - 70 K, 空温度は期間中ほぼ一定の値を示し, その値は 約 140 K であった. 太陽放射の直達成分と散乱成分の最大値はそれぞれ 480 Wm-2 と 40 Wm-2 となることがわかった. 今後はダストの時空間分布を変えた計算結果を解析し, 着陸候補地点における気温や気圧などの物理量がどの程度変動しうるかを評価する予定である.
現在, わが国の宇宙工学および理学コミュニティにおいて着陸船による生命・表層環境探査を主体とした火星探査計画(MELOS1)の検討が進められている. 計画では, 地表に探査機を降下させ, バイキングが実施した実験よりも 3 桁以上精度を上げた生命探査と, 気温・気圧・風速および大気中のダストを観測対象とした火星表層環境のモニタリングを行うことを目指している. 探査機および搭載する観測機器の設計, および探査機の安全な着地と運用のためには, 着陸予定地点の環境を事前にある程度把握しておく必要がある.
この問題に対し, 我々は大気大循環モデル, 領域気象モデル, ラージエディシミュレーションモデルの計算結果を基に, 惑星規模から大気境界層スケールにいたる火星表層環境に関する情報を提供すること目指している. メソスケールから大気境界層スケールの環境評価は, 名古屋大学水循環研究センターで開発された CReSS および理化学研究所で開発された SCALE-LES を用いて行うとし, 現在両モデルの火星大気へのチューニング作業と予備的な数値実験を行っている(杉山 他 2013; 西澤 他 2013). 惑星規模スケールの環境評価は地球流体電脳倶楽部にて開発されてきた惑星大気大循環モデル DCPAM (高橋他 2012) を用いる. 本研究では, DCPAM の計算結果とバイキングおよびマーズパスファインダーの観測結果とを比較し, それに基づいて大気大循環モデルのデータを用いた適切な環境評価方法の検討を行う. 次にその方法を用いた探査機の着陸候補地点における環境評価の結果について示す.
2. 使用するデータ
DCPAM はスペクトル法を用いた大気大循環モデルであり, 大気放射等の物理過程は火星に対応したものを組み込んでいる. 地表面のアルベドおよび熱慣性の値はマーズグローバルサーベイヤーの観測結果に基づいている. 水平切断波数は 31 で対応する水平格子間隔は約 200 km である. 鉛直層数は 36 層で, 最下層の高度は約 3 m である. モデルにはマーズグローバルサーベイヤーで観測された平均的なダストの時空間分布を与え, 等温静止状態初期条件とし 7 火星年計算を行う. 解析にはその最後の 2 年分の結果をもちいた.
解析する物理量は 3 つの着陸候補地点(ニュートンクレータ, ニリ渓谷, イシディス平原)における地表面温度と地表気圧, 高度 1 m の気温と水平風速, 地表における太陽放射直達成分, 太陽放射散光成分, 空温度(下向き赤外放射量に対応する黒体温度)である. これらのデータが探査機の設計に必要とされている. 解析期間は現在想定している 4 つの到着時期(Ls = 331, 324, 14, 135)から 90 火星日で, 到着後から 15 火星日毎の各物理量の日変化を調べる.
3. 解析方法の検討と結果
モデルの結果をバイキングおよびマーズパスファインダーとの観測結果と比較する際の問題は, モデルの最下層の高度が観測高度と異なること, モデルの格子スケールで平均した標高は実際の標高とは異なることである. そこで, 気温と風速は地表付近で中立成層を仮定した相似則が成り立つと仮定して観測高度における値を評価し, 地表気圧についてはモデルで計算された気温に対応するスケールハイトを用いて実際の標高における気圧を評価する. 比較の結果, 気温についてはモデル第 2 層(高度約 12.5 m)の計算結果を用いて高度補正を行うと, 観測された気温の日変化をよく再現することがわかった. 気圧についてはモデル第 10 層(高度約 1.35 km)の気温で与えられるスケールハイトを用いて高度補正を行い, さらに全体として 60 Pa 差し引くと観測される気圧の年変化をおおむね再現することが確かめられた.
以上の結果に基づき, 3 つの着陸候補地点の 4 つの探査期間におけるデータの解析を行った. 第 1 候補地点であるニュートンクレータ (202.5E, 42.7S) の Ls = 331 からの期間については, 探査機の熱設計に必要な物理量に着目すると, 日平均気温は 190 - 220 K で日変化の振幅は約 50 - 70 K, 空温度は期間中ほぼ一定の値を示し, その値は 約 140 K であった. 太陽放射の直達成分と散乱成分の最大値はそれぞれ 480 Wm-2 と 40 Wm-2 となることがわかった. 今後はダストの時空間分布を変えた計算結果を解析し, 着陸候補地点における気温や気圧などの物理量がどの程度変動しうるかを評価する予定である.