09:45 〜 10:00
[PPS21-04] 擬物質の摩擦実験から考察する摩擦挙動に対するメルトの影響と深発月震への考察
キーワード:メルト, 深発月震, 月, 摩擦挙動
これまでアポロ計画の月震観測 (Passive Seismic Experiment)によって、12,000以上の月震イベントが観測されている(e.g., Nakamura 2003)。それらの月震イベントは主に、熱月震、インパクトによる月震、浅発月震、深発月震と4つに分類される(Latham et al., 1969)。この中で最も興味深いのは深発月震である。なぜなら、月の半径が約1735 kmに対して、800?1200 kmの深さで深発月震は観測されており、先行研究から考えられている温度圧力から、明らかに塑性変形が支配的と考えられる領域だからである。通常は破壊や滑りが起こらない塑性変形領域で月震が起こるメカニズムを実験的に検証することが本研究の目的である。これまで月の内部はドライな状態だと考えられてきたが、最近になって月には水が存在することがわかってきた。さらに月の比較的深い場所(〜800km)にも、水が存在している可能性が、鉱物の電気伝導度からも議論されている(Karato 2013)。水は岩石の様々な物理パラメーターに大きな影響を及ぼすことが分かっているが、その1つとして岩石の融解温度を大きく下げる働きをすることがわかっており、この効果を考慮すると、深発月震の深さで部分溶融が起こっている可能性がある。Weber et al. (2011)は月震データとモデリングから1200kmの深さ付近に部分溶融層が存在していることを示唆している。そこで、この部分溶融が月震を引き起こす1つの原因であるという仮説を立て、低温で部分溶融を起こすことのできる模擬物質(Borneol-diphenylamine)(Takei 2000)を用いて、2軸摩擦変形試験機を使用して摩擦実験を行った。このBorneol-diphenylamineを用いることで部分溶融度とメルトの濡れ角を調節することができる。実験結果から摩擦係数とピークストレスを観察した。我々の実験結果から、ぬれ角30oのときは部分溶融度が大きくなればなるほど、摩擦係数とピークストレスは減少することが分かった。しかし、ぬれ角0oのときは摩擦係数は大きく減少するが、部分溶融度が増加しても摩擦係数は変化しない。これはメルトが界面を完全に濡らすことで、力学的挙動がメルトによって完全に支配されていることが原因であると考えられる。摩擦係数におけるメルトの効果は3つ期待される。1つは実験で示された摩擦係数を下げる効果、2つ目はメルト自体が間隙圧として働く効果、3つ目はメルトによって周囲の水が抜き取られることで剪断の局所化が誘発される効果である。Byerleeの法則によると、摩擦強度は惑星の深さ(圧力)に比例して増加するため、深発月震の発生深度ではとても大きくなる(月内部の上載岩圧から計算すると5GPa以上)。しかし、上述した3つの効果を考慮すると、摩擦強度が劇的に減少することが考えられる。3つ目の効果として挙げた剪断の局所化の効果は定量的に評価するのは困難であるが、このメルトの効果によって摩擦強度が劇的に下がることで塑性変形領域でも摩擦による変形が起こりえるのかもしれない。