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[PPS21-09] CH4/CO2大気中での遠紫外線による有機物エアロゾル生成
キーワード:有機物エアロゾル, 光化学, 室内実験, 還元的大気
有機物エアロゾルはメタンに富む還元的な惑星大気中で光化学反応によって生成されるが、その生成経路は実験的にあまり制約されていない。酸素濃度が増大する以前の原始地球においては、有機物エアロゾル層が反温室効果(Pavlov et al., 2001)または間接的温室効果(Wolf and Toon, 2010)によって地表温度に大きな影響を与えていたことが推測されているが、エアロゾル生成経路の不定性のため、これまで見積もられてきたエアロゾルの生成率や光学的厚みには大きな不定性が内在しているのが現状であった(Trainer et al., 2006)。そこで我々は、有機物エアロゾルの生成経路を制約するため、室内実験を行い、CH4/CO2大気中での遠紫外線(FUV)によるエアロゾル生成率の(1)FUVフラックス依存性、および(2) CH4/CO2ガス比依存性を調べた。波長110nmより長波長における模擬太陽紫外光として、ライマンアルファ線の発光強度が卓越することが知られている、水素・ヘリウム混合ガスを用いた紫外線光源を用い、FUVフラックスはN2OガスおよびCO2ガスを用いたアクチノメトリー法によって計測した。また反応容器内の基板上に堆積する有機薄膜の膜厚の時間変化を分光エリプソメトリーによって計測することで、エアロゾル生成率を得た。その結果、エアロゾル生成率はFUVフラックスに対して1次関数的に増加することがわかった。このことは、タイタン大気中で観測されているエアロゾル生成率を、原始地球や系外惑星などの他の還元的な惑星大気に外挿した場合、生成率は低く見積もられることを意味する。またエアロゾル生成率のCH4/CO2ガス比依存性を調べた結果、CH4/CO2比が1を下回ると生成率は急速に低下することがわかった。この実験結果を解釈するため、我々はさらに1ボックス光化学モデルを構築し、実験条件における反応経路を解析した。光化学モデルは791反応、134分子種(C8分子まで)を含む。モデルの妥当性は、幾つかの主要な中間生成ガス(CH4, C2H2, C2H4, C2H6, CO, CO2)の濃度の計算結果と、質量分析によって計測されたそれらのガスの濃度を比較することで確認した。高次の炭化水素の計算結果から、実験で得られたCH4/CO2ガス比に対するエアロゾル生成率の依存性とベンゼンを介する重合反応の反応率の相関が良いことがわかった。このことはベンゼンがエアロゾルの生成を律速していることを示唆している。一方で、過去の光化学モデルでエアロゾル生成反応に寄与すると仮定されていたC4H2などのポリンの重合反応は、エアロゾル生成率とあまり相関が良くないことがわかった。そのかわりポリンはベンゼンを生成する上での前駆体として重要であることがわかった。以上の結果と紫外線光量に対する結果ともあわせて、タイタンでのエアロゾル生成率を元に、原始地球でのエアロゾル生成率を見積もると、過去の研究による見積もりより2桁程度小さくなることがわかった。この理由は、先行研究ではエアロゾルの生成に直接関与しない分子も含めての生成率を計算していたため、遠紫外線によるエアロゾル生成量を過大評価していたことが原因である。これらの結果から、原始地球においては遠紫外線で生成されるエアロゾル層は光学的に薄く、反温室効果も間接的温室効果も聞かないことが推測される。一方で原始地球においてはメタン・二酸化炭素・水・エタンなどの他の赤外活性気体による温室効果ガスが卓越していたであろうことが示唆される。本発表ではさらに、タイタン大気中で高い生成率を持つと見積もられている、高エネルギー粒子の入射によって駆動されるニトリル反応による有機物エアロゾル生成の可能性についても議論する。