日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21_29AM2] 惑星科学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 416 (4F)

コンビーナ:*奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、座長:洪 鵬(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、大西 将徳(神戸大学大学院理学研究科)

11:30 〜 11:45

[PPS21-10] 周惑星ガス円盤中で形成する巨大氷衛星の原始大気

*三上 峻1倉本 圭1 (1.北海道大学理学院宇宙理学専攻)

キーワード:巨大氷衛星, 大気, 周惑星円盤

巨大氷衛星ガニメデ,カリスト,タイタンはサイズと平均密度が似るにも関わらず,表層環境が顕著に異なる.特にタイタンは太陽系の衛星として唯一厚い大気を持ち,その地表面気圧は地球の1.5倍にも上る.その主成分であるN2は,近年の探査機カッシーニのデータから,NH3 のような他の窒素分子種に由来する可能性が高いことが示唆された.しかし,N2がいつどのように生成されたのかは未解決の問題であり,これは,集積期の巨大氷衛星の物理状態について不明な点が多いことに起因する. 最近有力視される衛星形成理論によると,巨大氷衛星をはじめとする規則衛星は低温・低圧な周惑星円盤において比較的長い時間をかけて集積成長する.そのような形成条件では,集積期の巨大氷衛星は非常に寒冷な環境にあったとする主張があるが,そこでは原始大気の保温効果が無視されている.しかし低温の円盤環境下では巨大氷衛星は大量の円盤ガスを捕獲し,蒸発した氷成分とともに厚い原始大気を形成する可能性がある.そこで本研究では,このような混合型大気の構造と保温効果について数値モデルを構築して検討した.原始大気は衛星ヒル半径において薄い周惑星円盤に静力学的に接続する.大気成分として円盤ガス成分であるH2, Heと材料物質中の氷に含まれるH2OとNH3を考慮し,衛星の地表面温度の関数として放射対流平衡構造を求め,大気上端の熱放射フラックスを算出した.また,それぞれの衛星形成場領域の円盤条件はCanup and Ward (2002) をもとに,ガニメデ軌道では150 K, カリスト軌道では120 K,タイタン軌道では50 Kとして計算を行った.どの円盤条件においても,地表面温度が273 K以上の場合には,H2Oの寄与により大気が光学的に厚くなり,大気上端からの熱放射フラックスは大気無しの黒体放射より顕著に小さい.一方,地表面温度がより低い場合,ガニメデ・カリストの条件下では熱放射フラックスは黒体放射に漸近する.これは背景温度が比較的高いために大気のスケールハイトが大きく,低圧で光学的に薄い大気となるからである.一方,タイタンの条件下では,同じ地表面温度に対し,黒体放射に近い熱放射フラックスを持つ解に加え著しく熱放射フラックスの小さな解も出現する.後者の解は,背景温度が低いために重力的に強く束縛された光学的に厚い大気が形成されることに対応している.ここから,タイタンでは,集積エネルギーの解放が完了したのちも,比較的高温 (~200 K) の原始大気が保持されると考えられる.安定性の解析から,ガニメデやカリストの原始大気は円盤ガスの散逸に追従して失われるのに対し,タイタンのそれは残存すると考えられる.この場合,氷成分から揮発したNH3が高分圧で維持されると期待される.現在のタイタン大気のN2 はこのNH3 が光化学反応プロセスを経ることで生成されたのかもしれない.