日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21_29AM2] 惑星科学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 416 (4F)

コンビーナ:*奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、座長:洪 鵬(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、大西 将徳(神戸大学大学院理学研究科)

12:30 〜 12:45

[PPS21-P01_PG] 地球大気を考慮した極超音速飛行隕石のソニックブーム解析

ポスター講演3分口頭発表枠

*山下 礼1鈴木 宏二郎1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:ソニックブーム, 隕石, 極超音速流, CFD, 衝撃波

隕石落下時の問題点として,高速飛行することにより発生する衝撃波,すなわちソニックブームがあげられる.2013年2月にロシアのチェリャビンスクで観測された事象では,隕石から発生したソニックブームにより窓ガラスや建物が損壊し,多くの人的被害を被った.このことから,隕石がもたらすソニックブームの影響を検証する事は重要と考えられる.本研究では,航空宇宙工学で培われたソニックブーム予測手法を適用することで,極超音速飛行する隕石から発生したソニックブーム強度を予測する.具体的には,数値流体力学(CFD)に基づいた予測手法(R. Yamashita and K. Suzuki, APISAT2013, No. 02-05-3)を適用することで,衝撃波が地球大気内を地上まで伝播する様子を明らかにする.解析対象は,高度10 kmをマッハ10(約3 km/s)で水平定常飛行する隕石を想定し,直径20 mの球体まわりの流れ場とした.地球大気モデルは国際標準大気(ISO 2533:1975)を用いた.国際標準大気では,温度が高度の関数で与えられ,圧力,密度は理想気体の状態方程式及び静水圧平衡の式から導出される.支配方程式は,重力項を付加した3次元Navier-Stokes方程式である.計算格子は,2次元格子を物体軸周りに180度回転させた格子であり,格子数は約554万点である.地球大気の場合,高度に応じて大気の状態が変化するため,衝撃波角も変化する.そのため,予備計算を行った後,物体前方から発生するbow shock waveに沿った適合格子を形成し,再度計算を行った.なお,計算負荷を軽減するため,計算領域をセクターに分割し,物体近傍のみ2次元軸対称解析を実施した.対流項の離散化はAUSM系のスキームであるSHUS(E. Shima and T. Jounouchi,第14回航空機計算空気力学シンポジウム論文集,pp.7-12,1997)を3次精度MUSCL法により高次精度化したものを用いた.粘性項は2次精度中心差分で評価し,重力項は生成項として扱った.また,時間積分はMFGS陰解法(嶋英志,第29回流体力学講演会論文集, pp.325-328, 1997)で行った.
数値解析結果より,球体から発生する衝撃波は,物体前方のbow shock waveと物体後流のtrailing shock waveである事が分かる.そして,bow shock waveとtrailing shock waveは地上にかけて近づき,高度8 kmまでに統合する.そのため,極超音速飛行する隕石の場合,急峻な圧力上昇(爆発音)が生じるのは1回のみとなり,bow shock waveより弱いtrailing shock waveの寄与は小さくなる(超音速機の場合,N型の波形を形成し,爆発音の回数は2回となる).チェリャビンスクの事象では,隕石が爆発により3個に分裂し,地上で3度の爆発音が発生したと報告されている(NHK COSMIC FRONT:ロシア隕石の全貌).つまり,隕石の破片の数と爆発音の回数が一致し,本解析結果から得られる特徴とも一致する.一様大気を伝播する衝撃波は,遠方にかけて円錐状に広がるため,地上にかけて常に減衰し続ける.一方,地球大気の場合,地上にかけて大気圧及び大気温度が上昇するため,圧力上昇値を増幅させる効果も働く.特に,国際標準大気では高度11 kmから地上にかけて,温度が6.5 K/kmの割合で上昇し,増幅効果の影響が顕著に表れる.その結果,物体近傍では最大圧力上昇値が急激に減少するが,高度5 kmから地上にかけてはほとんど変化が見られない.また,地球大気では衝撃波の伝播方向によって圧力上昇値の減衰傾向が異なり,ソニックブーム強度は鉛直下方で最も強くなる.本解析結果では,地上での反射係数が1.9の場合,隕石直下で圧力上昇値が約1.5 kPaとなり,次世代超音速機の開発で求められている基準値(24Pa)の約63倍に相当する.チェリャビンスクの隕石では,窓ガラスの損傷から圧力上昇値を導出した結果, 3.2±0.6 kPaであったと報告されている(NATURE 12741).従って,計算条件と実際の飛行条件は異なるが,圧力上昇値は共に1 kPaのオーダーであり,ソニックブームの伝播傾向を検証する上では有用な結果と考えられる.そして,1 kPaオーダーの圧力上昇がもたらす影響は甚大であり,チェリャビンスクで起きた事象はその影響を顕著に表した事例である.
本研究では,航空宇宙工学で培ったソニックブーム予測手法を適用することで,隕石から発生したソニックブーム強度を評価した.今後はパラメトリックスタディを行うことにより,実際の隕石のサイズや飛行条件を推算できると考えられる.