日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21_29AM2] 惑星科学

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 416 (4F)

コンビーナ:*奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、座長:洪 鵬(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、大西 将徳(神戸大学大学院理学研究科)

12:30 〜 12:45

[PPS21-P12_PG] 氷天体用ペネトレータ貫入ダイナミクスの基礎特性に関する研究

ポスター講演3分口頭発表枠

*難波 和也1鈴木 宏二郎2 (1.東京大学大学院工学系研究科、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:氷天体, ペネトレータ, クレータ, バリスティックレンジ

天体の固体表面に高速でハードランディングし,天体の内部を直接観測することを目的としたペネトレータと呼ばれる探査機は,将来の惑星探査において重要な役割を果たすと考えられる.通常のランダーに比べて着陸用燃料が少なくて済み,低質量ゆえに一度に複数の機体の打ち上げが可能である点などで優位性を持つが,機体にかかる衝撃が大きく,現在までミッションを達成した例は存在しない.一方,彗星核やエウロパに代表される氷天体には,生命の前駆物質となる有機物が存在する可能性が高く,将来的な探査対象として重要である.ここで,氷天体に貫入し,宇宙線による汚染を受けていない地下のサンプルを直接観測する「氷ペネトレータ」の有用性は非常に高いといえる.ペネトレータの先行例としては,実機が製作されたLUNAR-Aなどがあるが,氷ペネトレータに限るとNASAのCRAF構想(Adams et al., NASA CR-177393, 1986)のみに限られ,貫入のダイナミクスに関する工学的研究は少ない.そのため,本研究ではバリスティックレンジを用いた針状物体のH2O氷への貫入実験を行い,基礎特性に関する研究を行った.

実験には,本研究室が所有するバリスティックレンジを使用した.飛翔体は加速用サボと共に圧縮空気により重力方向に水平に加速され,測定室内でサボから分離し,速度方向に垂直になるよう設置されたターゲットに衝突する.衝突速度は100-300[m/s]の間で変化させた.飛翔体として,針状飛翔体(鉄製,寸法φ2.45×45[mm],重量1.71[g])と鈍頭円錐状飛翔体(真鍮製,寸法φ8.4×15[mm],重量2.33[g])を使用した.ターゲットには,純氷(寸法270x175x130[mm],質量5.5[kg],密度0.90[g/cm3],空隙率3[%])と水道水を凍らせて作った低純度氷(寸法155x120x100[mm],質量1.5[kg],密度0.75[g/cm3],空隙率19[%]),また比較のために油粘土(寸法155x120x70[mm],質量2.2[kg],密度1.7[g/cm3])を使用した.衝突の様子はハイスピードカメラ(フレームレート2200-8800[fps],露光時間15[μs])を用いて記録し,飛翔体の姿勢と衝突時の貫入・クレータ形成の様子を観測した.

H2O氷に飛翔体が衝突したとき,衝突直後においてコーン状のイジェクタ噴出が発生した後,ターゲットからほぼ垂直方向に集中したジェット状イジェクタ噴出が発生することがわかった.この噴出は100[ms]以上にわたる長期間のもので,粘土への貫入における数ミリ秒程度の短いコーン状の噴出とは対照的な結果となった.また,貫入により破壊された氷の大部分が噴出されるため,粘土への貫入の際に発生するような,飛翔体が周りの物質に締め付けられて固定される現象が起こらず,イジェクタと一緒に押し出されてしまう傾向があることが確認できた.飛翔体がターゲットから完全に離脱した後も衝撃波のもたらす破壊によるイジェクタ噴出は続いていた.この傾向は体積に対する衝突断面積が大きい機体において強く見られた.迎角がついた場合での貫入においても,細長形状の方が貫入を保つケースが多く見られた.そのため,貫入ミッション達成には細長形状の方が有利に働く可能性が高いことが考えられる.貫入後のクレータ形状は,中央の貫入部近傍のピット領域,その周辺の浅くなだらかなスポール領域,ターゲットの広範囲に延びるクラックからなり,氷への弾丸形状の衝突における先行研究(e.g. Kato et al., Icarus 113(2) 423-441, 1995., Arakawa, Low Temperature Science 66 113-121, 2008)と定性的に一致している.衝突点で発生する圧力を一次元的近似である平板衝突近似(Wada, JSIAM 16(4) 19-31, 2006)により見積もった結果,H2O氷のユゴニオ弾性限界圧力を大きく超えており,衝突点近傍で氷は剪断強度を喪失し,流体として振る舞うことが推測できる.

本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(B)No.25289301)の支援を受けて行われた.ここに感謝の意を表する.