日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS22_1PO1] 隕石と実験からみた惑星物質とその進化

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*木村 眞(茨城大学理学部)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)

18:15 〜 19:30

[PPS22-P05] ユークライトの希土類元素、SrおよびBa同位体研究

*世羅 浩平1日高 洋1米田 成一2 (1.広島大学大学院地球惑星システム学専攻、2.国立科学博物館理工学研究部)

キーワード:ユークライト, 希土類元素, 年代学, 同位体

分化した隕石であるユークライトは小惑星4ヴェスタの地殻部分に起源をもつと考えられ、その同位体研究からは原始惑星内の地殻―マントル分化を伴う初期進化過程に関する物質科学的な知見を得ることが期待できる。本研究では、原始惑星地殻の初期進化過程および太陽系年代学に用いられる手法に関する情報を体系的に得ることを目的として、ユークライトの希土類元素およびSr, Baに着目し、その同位体の分析を試みた。希土類元素同位体からは、放射壊変起源138Ce, 142Nd, 143Ndの同位体を組み合わせることで初期分化過程に関する年代学的情報を、中性子捕獲反応がもたらす149Sm-150Smおよび157Gd-158Gdの同位体シフトをとらえることによって宇宙線照射環境を知ることができる。また、SrおよびBa同位体データからは、ともに反応性に富むアルカリ金属元素を親核種にもつ87Rb-87Sr, 135Cs-135Ba壊変系に基づいた年代学的情報をもたらすと考えられる。
 本研究では、Juvinas, Stannern, Millbillillie, Dar al Gani 380 (DaG 380), DaG 391, DaG 411, DaG 443, DaG 480 の8つのユークライトを用いた。各隕石試料約1gを粉砕後、酸分解し、試料溶液とした。各試料溶液を二分し、その大部分は所定のイオン交換法を用いて、Sr, Ba, Ce, Nd, Sm, Gdを化学分離し、表面電離型質量分析計(Triton-Plus)による高精度同位体比測定を行い、残りはICP質量分析計(Agilent 7500cx)を用いてRb, Sr, Cs, Ba, REEの元素濃度測定を行った。
 DaG 480を除く7つの試料がその全岩化学組成において、CIコンドライト隕石の数~十数倍の希土類元素存在度を示し、そのパターンはEuを除いてほぼ平坦であり、これまで報告されている典型的な非集積岩タイプのユークライトが持つ特徴を示した。Millbillillieは母天体での部分溶融あるいは地球上での汚染を経験した可能性が示唆される。138Ce同位体比では4つ、142Nd, 143Nd同位体比では7つの試料についてデータが得られ、先行研究で示されている各同位体進化線(Makishima and Masuda, 1991; Boyet and Carlson, 2005; Andreasen and Sharma, 2007)と整合性のある結果が得られた。また、ε142Nd-ε143Ndプロットにおいて本研究試料は先行研究で報告されている集積岩ユークライトの同位体データと同一の傾向を示したが、先行研究のコンドライトの同位体データとは違う傾向を示した。87Rb-87Sr壊変系における同位体比データは同一の外的等時線を形成するには至らず、Papanastassiou and Wasserburg, (1969) にて示されたSr初期同位体比(BABI)を改定することはできなかった。SmおよびGd同位体シフトから見積もられる中性子フルエンスは(0.28~4.05)×1015 n cm-2であり、これらはほぼ母天体から放出された後の宇宙線照射によるものと考えられる。Ba同位体比では太陽系外での原子核合成に起因する同位体比異常は確認されず、ユークライト母天体における火成活動による同位体比の均質化が起こった可能性が示唆される。しかし、右図に示すように135Ba同位体比には顕著な同位体変動が確認でき、ユークライト形成時における消滅核種135Csの存在を示唆する結果が得られた。現在、各試料中のRbおよびSrの元素存在度について同位体希釈法を用いて高精度に定量することを検討しており、今後87Rb-87Sr壊変系に基づく年代学的データと138La-138Ce, 146Sm-142Nd, 147Sm-143Nd壊変系から得られる情報との詳細な比較を行うと共に集積岩ユークライトおよびユークライトと同一の隕石グループに属するダイオジェナイトについても同様の分析を行う予定である。