日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS23_2AM2] 月の科学と探査

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 413 (4F)

コンビーナ:*諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、本田 親寿(会津大学)、西野 真木(名古屋大学太陽地球環境研究所)、長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、座長:長岡 央(早稲田大学先進理工学部)、上本 季更(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

11:15 〜 11:30

[PPS23-09] 月サウスポールエイトケン盆地の岩石・鉱物分布

*上本 季更1大竹 真紀子2春山 純一2山本 聡3中村 良介4松永 恒雄3岩田 隆浩2 (1.東京大学、2.宇宙航空研究開発機構、3.国立環境研究所、4.産業技術総合研究所)

キーワード:サウスポールエイトケン, 月, 岩石, 鉱物

背景:サウスポール・エイトケン(以下SPA)盆地は月裏側の南半球に広がる月最大級の衝突盆地(直径約2200~2500 km)[1] であり、表面の地殻がはぎとられ、月マントルが露出しているといわれている[2]。そのため、SPAは月内部の組成を調べる上で最も重要な領域の1つである。SPAの中心部では、月マントル物質が地下深くまで溶融し貯留しているインパクトメルトプールが形成されたと考えられている[3]。その組成を調査することは、未だ解明されていない月マントル組成解明に繋げられると考える。ただし現在、SPA盆地の内部は、盆地形成以降に噴出した溶岩流(以下マーレ)による被覆や、衝突飛散物等による表面の混合により[4]、インパクトメルトプールの露出面積や鉱物・化学組成、溶融規模などは不明である。さらに、SPA中心部は同プールを形成するインパクトメルトと似た鉱物組成をもつ溶岩流(以下クリプトマーレ)が存在する可能性があると先行研究で言われているが[4]、先行研究では地形や反射率から推測されているのみである上に、使用したデータの解像度が低く、スペクトルの解析波長も短いため、各岩石同士の層序関係や、鉱物種を詳細に調査しておらず、中心部の地質は曖昧といえる。手法:本研究では、月周回衛星かぐやによって得られた標高情報(LALT)と標高情報から製作した地形凸凹、分光データ(MI・SP)による盆地内部の岩石・鉱物組成を用いて、インパクトメルトプールの位置とサイズ(直径)、および岩相の推測をおこなった。結果・考察:SPA盆地内に地形の窪みが存在し、その外側と内側で、鉱物・化学組成が大きく異なり、外側では地殻物質や溶岩噴出物などが複雑に入り組んで存在するのに対し、内側では高カルシウム輝石に富む岩石が広く存在することが解った。さらにその地域の鉱物分布を詳細に解析した結果、主に低カルシウム輝石に富む岩石、高カルシウム輝石に富む岩石、マーレ物質に分けられた。SPA盆地形成後にできたクレーターの内部や中央丘等の情報を使うことで、層序は上から、上部低カルシウム輝石層およびマーレ物質層→高カルシウム輝石層→下部低カルシウム輝石層と推測される。高カルシウム輝石層は、最上面に分布している領域に加え上部低カルシウム輝石層やマーレ物質層に一部覆われている部分も考慮すると、窪地全域に広範囲に存在することや、下部低カルシウム輝石層の中央丘(最小のものの約直径60km)から見積もると少なくとも約10kmは層厚が考えられる。この地域のマーレと比較すると、面積、層厚ともに数十倍の差が認められるため、クリプトマーレとは考えにくい。よって高カルシウム輝石層はインパクトメルトプールであると推測した。上部低カルシウム層の由来は窪地外側や分布状況、産状から盆地形成時の飛散物と考えられるが、下部低カルシウム輝石層の由来は、インパクトメルトプールの分化等を考慮にいれなければならず、今後の課題である。[1] Alexander,1978 [2] Spudis et al.,1994, [3]Lucey et al.,1997,[4] Pieters et al.,2000