日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS24_1PM1] 宇宙における物質の形成と進化

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 415 (4F)

コンビーナ:*橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、大坪 貴文(東北大学大学院理学研究科天文学専攻)、本田 充彦(神奈川大学理学部数理物理学科)、座長:大坪 貴文(東北大学大学院理学研究科天文学専攻)

14:30 〜 14:45

[PPS24-02] 電子線トモグラフィー法によるGEMSの3次元構造の観察

*松野 淳也1三宅 亮1土山 明1中村 圭子2メッセンジャー スコット2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.NASAジョンソンスペースセンター)

キーワード:惑星間塵, GEMS, 透過型電子顕微鏡, トモグラフィー

彗星起源と考えられる無水惑星間塵(CP-IDPs)にはGEMS (Glass with Embedded Metal and Sulfides) と呼ばれる微小 (~数100 nm) 粒子が多量に含まれている。GEMSは非晶質珪酸塩中に複数のFe-Ni金属、硫化物ナノ包有物(10-50 nm)を有しており、太陽系の最も始原的な物質の一つと考えられている。またGEMSは、その赤外スペクトルの特徴が星間塵や星周塵のものとよく合致するサブミクロンサイズのダストである事から、いわゆる”astronomical silicate”の候補物質でもある[1]。このように惑星物質学上も天文学上も注目されている物質であるが、どこでどのようにGEMSが生まれたのかは議論中である[2-5]。Bradleyらは、GEMSは原始太陽系円盤での様々な変成を免れた星間塵であり、結晶が宇宙線などの照射により非晶質化して形成したと主張している[2,4]。その根拠の1つとして透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察結果で、GEMSの中に~10nm程度のrelict grainと呼ばれる結晶が存在しその外形がGEMSそのものの外形と仮晶関係にある、というのがある[2]。しかし、そもそもrelict grainがこの報告以外では観察されないこと[3]や、2次元の観察での外形評価は不定性が大きいことなどの疑問も残っている。一方KellerとMessengerは、GEMSは高温ガスの凝縮物であるというモデルを提案している[3,5]。ほとんどのGEMSに酸素同位体異常がみられない、元素存在度が粒子毎にばらつきが大きい、粒子表面にのみ硫化鉄が存在するという観察事実に基づき、GEMSは原始惑星円盤において高温ガスから金属鉄を含む非晶質珪酸塩が凝縮し、冷却するにつれて凝縮粒子表面の金属鉄が硫化したことにより形成した、と説明している。しかしこのグループの観察においてもTEMによる2次元像観察を行なっているため、真に硫化鉄がGEMS表面のみに存在しているのか証明できていない。
GEMSの形成起源を明らかにするため、本研究では、これまで2次元での観察に留まっているGEMSの組織観察を、TEMを用いた電子線トモグラフィーにより3次元で行なうことを試みた。これにより、3次元構造が得られるだけでなく、従来の2次元観察では試料の厚み(>~50 nm)により制限を受けていた空間分解能が、透過像の画素サイズの数倍程度まで上げることが可能であり、nmオーダーでの不均一性をもつGEMSのようなサンプルにとって極めて有効な観察手段である。観察にはcluster CP-IDPsである, L2036AA5 cluster4, L2009O8 cluster13, W7262A2の3試料を用いた。このうちW7262A2はポリウレタンを用いて捕獲したIDPであり、従来の捕獲法で使用されるシリコンオイルによる汚染を受けないという特徴をもつ試料である[6]。IDP試料を樹脂に埋めミクロトームにより超薄切片を作成した。GEMSの平均粒径が約180 nmであるため、切片厚みは50~300 nmとした。電子線トモグラフィーは京都大学のTEM(JEM-2100F, JEOL)を用いて行い、約±65°回転させながら1°おきに取得した透過像を再構成し一連の断層像を得た。なお透過像は、明視野透過顕微鏡法(BF-TEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF-STEM)法により取得した。断層像中に含まれる鉱物相の推定を、STEM-EDS (エネルギー分散型X線分析法)で取得した2次元元素分布像と比較することにより行なった結果、金属鉄は珪酸塩中に含まれる事、硫化鉄は主にGEMSの表面に存在する事を確認した。このことはGEMSが凝縮物であることを示唆するモデル[3,5]と調和的な結果だが、今後サンプル数を増やして統計的に検討する必要がある。なお電子線トモグラフィーを惑星間塵へ応用し断層像の再構成に成功したのは、今回の研究が世界初である。このことは今後の惑星物質科学の分析的研究上も意義深いといえる。[1] Bradley et al. (1999) Science, 285, 1716[2] Bradley and Dai (2004) ApJ, 617, 650[3] Keller and Messenger (2011) GCA, 75, 5336[4] Bradley (2013) GCA, 107, 336[5] Keller and Messenger (2013) GCA, 107, 341[6] Messenger et al. (2012) 43rd LPSC, 2696 (abstr.)?