日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS24_1PM2] 宇宙における物質の形成と進化

2014年5月1日(木) 16:15 〜 18:00 415 (4F)

コンビーナ:*橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、大坪 貴文(東北大学大学院理学研究科天文学専攻)、本田 充彦(神奈川大学理学部数理物理学科)、座長:橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)

17:30 〜 17:45

[PPS24-13] 衝撃波による氷ダストの加熱と蒸発

*三浦 均1山本 哲生2中本 泰史3 (1.名古屋市立大学、2.神戸大学、3.東京工業大学)

キーワード:氷ダスト, 衝撃波加熱, 蒸発, 化学進化, 原始星円盤, 原始惑星系円盤

分子雲から原始惑星系円盤へと至る際の化学進化において,固体氷は重要な役割を担う。固体氷表面ではCO分子へのH原子逐次付加反応によりホルムアルデヒドやメタノールなどの簡単な有機分子が形成する(Watanabe & Kouchi 2002)。さらにH-D置換反応により,これらの分子の重水素体が効率的に形成される(Nagaoka et al. 2005)。紫外線照射を受けた多成分氷を昇温させると,蒸発残渣としてアミノ酸などの複雑な有機分子が形成される(Munoz Caro et al. 2002)。固体氷が蒸発すると,中に閉じ込められていた多様な分子が放出されることでガスの化学組成が変化する。固体氷が経験する熱履歴は上記の化学進化に大きく影響するため,固体氷の熱進化を明らかにすることは重要である。本研究では,円盤ガス中に生じる衝撃波による固体氷の過渡的加熱現象に着目した。ガス円盤では,分子雲からのガス降着やガス円盤内での惑星形成に伴い,様々な条件で衝撃波が生じる。固体氷が周囲のガスと共に衝撃波面を通過すると,周囲のガスが瞬間的に速度変化する一方,固体氷は慣性のために通過前の速度を維持するため,両者の間に大きな相対速度が生じる。ガス分子が高速衝突することで固体氷が加熱され,同時に蒸発が生じる。相対速度は時間と共に急激に減少するため,衝撃波による加熱は継続時間が極めて短い過渡的な現象である。このとき,固体氷が経験する熱履歴や蒸発率を,様々な衝撃波条件に対して系統的に調べた。モデル:衝撃波後面のガスの温度や密度は一定だと仮定した。簡単のため,固体氷の形状は球であるとし,単一組成(H2O or CO)からなるとした。また,固体氷の熱慣性は小さく,温度変化のタイムスケールは速度変化のタイムスケールに対して充分小さいと仮定した。以上の仮定の下では,個々の固体氷の蒸発率(初期半径に対してどの程度半径が減じるかの比)は,衝撃波後面のガスと固体氷の相対速度の初期値v0と,衝撃波後面のガス密度ρgのみに依存する。ある与えられたv0とρgに対して,固体氷の運動方程式と蒸発に伴う半径変化の式を数値計算し,固体氷が経験する最高温度と蒸発率を求めた。結果:定性的には,v0とρgが大きいほど,固体氷は高温を経験し,蒸発率も大きくなる。その上で,以下のことが分かった。(i) v0とρgを大きくしても,完全蒸発はなかなか起こらない。これは,蒸発率が激しくなると半径が小さくなり,ガスとの相対速度がすぐに減少することで加熱継続時間が抑えられるというnegative feedbackが作用するからである。(ii) 蒸発率が1%を上回るための臨界のv_0が存在する。臨界速度は,純H2O氷の場合は約3 km/s,純CO氷の場合は約1 km/sである。いくらρgを大きくしても,v0がこの臨界速度以下であればほとんど蒸発は生じない。(iii) 固体氷は,平衡状態であれば揮発してしまう温度(固気平衡温度)を上回る最高温度を経験し得る。これは,ρgが大きい場合は加熱継続時間が極めて短いため,完全に気化する前に加熱が終わるからである。考察と結論:衝撃波の発生に伴う固体氷の熱履歴や蒸発率を,広い衝撃波条件にわたって系統的に明らかにした。これは,分子雲やガス円盤の天文観測で検出された化学組成の変化を,固体氷の蒸発現象と関連付ける上で有用であろう。固体氷が昇華温度を大きく上回る温度を経験することで,ガス円盤内においてアミノ酸などの複雑な有機分子が形成するかも知れない。高温では固体氷内でHとDの交換反応が期待できるため,これに伴う重水素濃集効果も興味深い。今後は,固体氷の過渡的加熱現象に伴う上記の過程の詳細について検討を進める予定である。