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[PPS25-04] LL4-6普通コンドライト隕石中リン酸塩鉱物の水含有量及び水素同位体組成
キーワード:水素同位体, 二次イオン質量分析計, リン酸塩鉱物, アパタイト
地球の水の起源は、これまで様々な研究により、複数の供給源が考えられてきた。どの材料物質から供給されたのかを議論する際に、水素同位体組成が指標としてよく用いられている。 彗星は、水の供給源の有力な候補の一つである。オールト雲起源の彗星は分子雲低温領域で形成するアモルファス氷を保存している。分子雲低温領域では、イオン分子交換反応によって重水素に富む氷が形成されるため、多くの彗星は高いD/H比を持っている。 地球には、彗星以外の地球外物質も飛来する。普通コンドライト隕石は落下隕石の9割を占めるもっともありふれた隕石である。これは、隕石母天体であるS型小惑星が、火星と木星の間にある小惑星帯の中央より内側の軌道を周回しており、他の小惑星と比較して地球に近い軌道を持つためである。普通コンドライト隕石は、全岩の鉄の存在量によってH、L、LLの3種類に分類される。LLコンドライト隕石のうち、あまり熱変成を受けていないSemarkona (LL3.0) は層状ケイ酸塩を含んでいる。この層状ケイ酸塩について、Deloule and Robert (1995) は、他の太陽系物質と比較して高い水素同位体組成 (+4600‰ ? δD ? +3300‰) を持つことを示した。また、彼らは,この水素同位体組成の起源が、彗星のような低温領域で形成された氷の値を反映していることを示唆した。S型小惑星が地球に近い軌道を持っていることから、LLコンドライト隕石の水素同位体組成は,地球近傍領域まで彗星がきたことを裏付ける可能性がある。 そこで普通コンドライト隕石に注目し、比較的熱変成を受けたLコンドライト隕石のMocs (L5-6) 及びEnsisheim (LL6) に含まれるリン酸塩鉱物 (アパタイト及びメリライト) の水素同位体組成を測定した。その結果、Mocs (L5-6) はδD = 0±±100‰で地球の海水と同程度の水素同位体組成を示した。一方、Ensisheim (LL6) は?17000‰と非常に高いD/H比を示した。以上より、普通コンドライト隕石の中でもLLコンドライト隕石は、高いD/H比を持ち、熱変成度の高いLLコンドライト隕石もD/H比が大きいと考えられる。しかし、熱変成度が高い普通コンドライト隕石のH2O含有量は低いため、バルク分析では吸着水による影響が大きく、他のLLコンドライト隕石も高いD/H比を持つのかは不明だった。 本研究では、熱変成度の異なる4つのLLコンドライト隕石に含まれるリン酸塩鉱物について、二次イオン質量分析計 (SIMS) を用いた局所同位体分析により地球の水による汚染の影響を少なくして水素同位体組成を測定した。 本研究では、LL4-6に分類されている自然史博物館所有の普通コンドライト隕石(Soko-Banja(LL4)、Tuxtuac(LL5)、Bandong(LL6)、Ensisheim(LL6))の岩石薄片を用いた。リン酸塩鉱物の探索及び定量分析には,熱電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM JEOL JSM 7000-F)及びエネルギー分散型X線検出器(EDS Oxford INCA Energy)を用いた。また,リン酸塩鉱物のH2O定量及び水素同位体分析には,二次イオン質量分析装置(Cameca ims-1270 SIMS)を用いた。 リン酸塩鉱物のH2O含有量は,どのサンプルでも100 ppm以下という値を示した。水素同位体組成はいずれも重水素に富んでおり、かつ、サンプル毎に異なっていた。特にEnsisheim (LL6) のリン酸塩鉱物のδD値は、最大で23000‰という他の太陽系物質と比較しても非常に高いD/H比を示した。 Soko-Banja (LL4) 及びTuxtuac (LL5) のリン酸塩鉱物の高いD/H比は金属鉄と水との酸化反応により生成する水素ガスの散逸により説明可能である。しかしながら、Ensisheim (LL6) 及び Bandong (LL6) のリン酸塩鉱物の非常に大きいD/H比は,この反応による説明が難しい。したがって、LL6の水素同位体組成の成因は,変成後に彗星のような他の天体によりもたらされたことを示唆していた。