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[PPS25-05] 異なるCa/Ti比をもつペロブスカイトの酸素拡散挙動
キーワード:ペロブスカイト, 酸素拡散
<はじめに> 炭素質コンドライト隕石中のCa, Alに富む難揮発性包有物 (CAI)は,太陽系で最も古い年代を示す岩石であり,メリライト,スピネル,アノーサイト,ペロブスカイト (CaTiO3) などの鉱物から構成される.CAI鉱物は,三酸素同位体図上において質量に依存しない傾き1の直線に沿う分別を示す [Clayton et al. (1973)]ことから,初期太陽系内の酸素同位体環境の情報を保存していると考えられ,議論が行われている [Yurimoto et al. (1998); Itoh and Yurimoto (2003); Katayama et al. (2012); Park et al. (2012)].そして,CAI鉱物は,星雲中や隕石母天体上で熱による変成を経験していると考えられるため,鉱物の酸素拡散挙動を理解する必要がある. ペロブスカイトは他のCAI鉱物よりも数桁大きい酸素拡散係数を示す[Gautason and Muehlenbachs (1993); Ryerson and McKeegan (1994); Sakaguchi and Haneda (1996)].そのため,ペロブスカイトの酸素同位体組成は,CAI鉱物の酸素拡散挙動を理解する手がかりとなる [Ito et al. (2004);Park et al. (2012)].しかし,ペロブスカイトの酸素拡散係数の報告例は少なく,また,先行研究の報告値には約1桁の違いがある.本研究では,酸素拡散挙動を変化させる要因としてペロブスカイトのCa/Ti比に着目し,Ca/Ti比の異なるペロブスカイトの酸素拡散係数を求めるため,18Oをトレーサーとしたガス-固体間の同位体拡散実験を行った. <実験手法> 高純度のCaCO3,TiO2粉末を出発物質とし,Ca/Ti比が0.098-1.002の混合粉末を作成した.部分安定化ジルコニア (PSZ)ボールを用いたボールミル粉砕を行った後,粉末をシート状に成形し,大気中1350 ℃で2時間焼成し,Ca/Ti比の異なるペロブスカイト多結晶体を得た.但し,ボールミル粉砕時にZrO2が混入する可能性があるため,Ca/Ti比は粉末混合時から約0.001-0.0015ずれると考えられる.試料は,機械研磨による鏡面仕上げ後,研磨ダメージを除去するため,大気中1200 ℃で1時間アニールを行った.さらに, 18O2ガス中において,750-1050 ℃温度下で数時間アニールさせ,二次イオン質量分析装置 (Cameca ims-4f)を用いて18O濃度プロファイルを取得し,酸素拡散係数を求めた. <結果と議論> Tiに富むペロブスカイト多結晶体では,再表面から始まる拡散 (拡散A),数100 nmの深さから始まる拡散 (拡散B)の存在が確認された.再表面と数100 nmにおける二次イオン像において,18O-は粒子状に分布しており,2つの拡散はどちらも体積拡散であると考えられる.Caに富むペロブスカイトでは,このような2つの拡散パスは見られなかった.拡散A, Bどちらにおいても,ペロブスカイトの酸素体積拡散係数はCa/Ti比によって異なることが分かった. 950 ℃大気圧下における拡散係数は,Ca/Ti比を1.002として焼成した試料では7x10-10 cm2/s ,Ca/Ti比を0.098として焼成した試料では,7x10-13 cm2/s (拡散A),1x10-11 cm2/s (拡散B)であり,全ての試料の拡散係数は,先行研究の報告値 [Gautason and Muehlenbachs (1993); Sakaguchi and Haneda (1996)]より大きい値であった. 炭素質コンドライト隕石のCAIにおいて,16Oに乏しいペロブスカイト[Ito et al. (2004)]と16Oに富むペロブスカイト[Park et al. (2012)]が報告されている. 前者は,熱変成で酸素同位体組成が変化したものであると考えられ,一方,後者は熱変成を逃れたものであると考えられている.拡散係数の大きさから,ペロブスカイトの酸素同位体組成は,CAIが最終的に経験した熱履歴を反映していると考えられ,本研究の結果から,熱拡散によってペロブスカイトの酸素同位体組成が変動するタイムスケールは,これまで考えられていたよりも短時間である可能性がある.また,ペロブスカイトの酸素拡散挙動を理解するためにはCa/Ti比を調べる必要があることが分かった.今後,NanoSIMSを用いた分析を行い,ペロブスカイトのCa/Ti比が酸素拡散挙動を変化させるメカニズム,およびTiに富むペロブスカイトに2つの拡散(A, B)が見られた原因を解明していきたいと考えている.