日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS26_30AM1] 来たる10年の月惑星探査に向けた構想と戦略

2014年4月30日(水) 09:00 〜 10:45 418 (4F)

コンビーナ:*出村 裕英(公立大学法人会津大学)、並木 則行(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、小林 直樹(独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部固体惑星科学研究系)、大槻 圭史(神戸大学大学院理学研究科)、渡邊 誠一郎(名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻)、三好 由純(名古屋大学太陽地球環境研究所)、座長:小林 直樹(独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所太陽系科学研究系)、出村 裕英(公立大学法人会津大学)

09:45 〜 10:00

[PPS26-04] その場年代計測装置による月惑星年代学探査

*諸田 智克1杉田 精司2長 勇一郎2三浦 弥生2渡邊 誠一郎1大竹 真紀子3小林 直樹3唐牛 譲3古本 宗充1本田 親寿4杉原 孝充5石原 吉明3石橋 高6荒井 朋子6武田 弘2寺田 健太郎7鎌田 俊一8佐伯 和人7小林 進悟9亀田 真吾10吉岡 和夫3岡崎 隆司11並木 則行6小林 正規6大野 宗祐6千秋 博紀6和田 浩二6橘 省吾8田中 智3向井 利典3 (1.名古屋大、2.東京大、3.宇宙航空研究開発機構、4.会津大、5.海洋研究開発機構、6.千葉工大、7.大阪大、8.北海道大、9.放医研、10.立教大、11.九州大)

キーワード:月惑星探査, 月, 年代学, クレータ, K-Ar 年代測定

日本における今後の月惑星探査を力強く推進するためには,一連の探査計画において共通の柱となる理学目標の設定が必須であることは言うまでもない.惑星科学が目指す一つのゴールは,太陽系で起こったとされる様々なイベントの有無と相互の因果関係を解明し,太陽系形成から現在に至る歴史を滑らかにつなぐことである.このような観点から我々は月惑星年代学を柱として,太陽系進化史の解明を目指したその場年代測定機器を用いた探査計画を提案する.本提案は月面着陸によるその場年代測定にもとづいて月面クレータ記録に絶対的時間軸を入れることにより,太陽系内側の天体衝突史を復元するものである.現状,岩石試料の欠落のために39億年前以前と過去30億年間の天体衝突史が不確定であるが,本提案では下記の太陽系力学進化に関わる問題の解明の重要性と国外ミッションとの競合性・相補性を考慮し,特に過去30億年の天体衝突史の復元を対象とする. (A) 月の熱的進化史の復元による月形成モデルの検証月は地球型惑星形成の最終段階に生じたとされる「巨大衝突」の実体に迫りうる唯一無二の天体である.巨大衝突仮説の予測によると月は全溶融から始まったとされる.その場合,高温の初期状態はその後の熱進化を大きく左右し,月は20億年以上もの長期間,マントル溶融域を保持できたと考えられる.一方で,クレータ年代学で決定された月のマグマ噴出年代から見積もられるマントル溶融域の保持期間は,クレータ年代学のモデルに大きく依存し,衝突率一定モデルでは約25億年もの間保持されていたことになり,月が高温でつくられたことを強く示唆するが,衝突率減少モデルに従うと15億年程度であり,初期の高温状態を必要としない.本提案では,衝突史の復元によってクレータ年代学の高精度化を達成し,マントル溶融域が長期間保持されたかを検証することで,月の初期温度状態を決定する.(B) 小天体のサイズ分布進化の復元微惑星から現在の太陽系小天体への力学進化は,巨大惑星の形成と大移動の歴史を知る上での鍵であり,太陽系形成から現在の太陽系構造へとつなぐ第一級の重要問題である.小天体の力学進化過程を探る上で重要な情報は小天体のサイズ分布である.メインベルト天体の観測から100?1000kmサイズの天体数が卓越している事が知られているが,これがもともとの微惑星形成時の特徴的なサイズを反映しているものか,現在の太陽系小天体が経験している衝突カスケードによる副産物であるのかはよく分かっていない.本提案では月表面に見られる太陽系天体衝突の時間変化から小天体質量の減少速度を初めて観測的に定量化し,衝突破壊強度などの基礎量をおさえることで,衝突カスケードが100kmサイズ天体の分布まで影響しているかを評価し,小天体のサイズ分布の問題に決着をつける.更に本探査で獲得されるその場年代決定技術や試料選別のスキーム,月面移動地質調査技術の経験は,将来の月面サンプルリターン計画や火星探査計画に継承されるものである.