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[SCG61-02] 南部北上山地,氷上花崗岩類の岩石学とジルコン年代学
キーワード:氷上花崗岩, ジルコン, U-Pb年代, 岩石学
氷上花崗岩類は,南部北上山地の氷上山を中心として分布する氷上花崗岩体(村田ほか,1974)と,それに類似したいくつかの小岩体からなる(北上古生層研究グループ,1982).氷上花崗岩体は,氷上山を中心に東西約8km,南北約14kmのほぼ楕円状に分布する岩体で,その南西部には壷の沢変成岩類を取り込むとされる(浅川ほか,1999;小林・高木,2000など). 層序的位置づけに関しては,クサヤミ沢にシルル系川内層アルコース砂岩と氷上花崗岩類との不整合などがある(村田ほか,1974).これまでに得られた年代にはシルル紀に相当するSHRIMP年代(442.0±3.5Ma; Watanabe et al.,1995)のほか,約250Ma,350Ma,440Ma のモナザイト,ゼノタイム,ジルコンによるCHIME年代がある(鈴木・足立,1998;鈴木ほか,1992;鈴木・足立,1994).またLA-ICP-MS によるジルコンU-Pb年代では,下條ほか(2010)により,429±19Ma,411~416Maのコンコーディア年代が得られている.これらの氷上花崗岩類の放射年代には地質学的証拠との間に矛盾があるため小林・高木(2000)の岩相区分を参考に氷上花崗岩体の9試料と小岩体の4試料からジルコンを分離し,年代測定を行った.その結果氷上花崗岩類の固結年代は450Maと結論される(佐々木ほか,2013).しかしながら,壺の沢変成岩と前期白亜紀の気仙川花崗岩との境界付近の片状中粒白雲母黒雲母花崗閃緑岩の2試料からは,著しくばらついた年代が得られたためさらにデータを増やして検討する.本研究では,小林・高木(2000)をもとにして,全岩化学組成によって岩相区分の再検討を行った.全岩化学組成の主成分元素の分析結果より,普通角閃石を含む岩相はFeO*,MgO,CaO ,Scの値が高いことが分かった.岩体の南部にのみ分布する片状普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩は普通角閃石を含むが異なる傾向を示す.また,壺の沢変成岩と密接に伴って分布する片状中粒白雲母黒雲母花崗閃緑岩は西縁部の気仙川花崗岩に近いものは他の岩相に比べて重希土類元素の値が低いことが確認された.以上の検討から,氷上花崗岩体は以下の3つの系列に分けることができる.:1)角閃石を含む系列(小林・高木(2000)の斑状普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩,片状含普通角閃石黒雲母トーナル岩,片状黒雲母普通角閃石トーナル岩). 2)角閃石を含まない系列(小林・高木(2000)の黒雲母花崗閃緑岩(大野型花崗閃緑岩),片状黒雲母花崗閃緑岩,片状普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩,片状中粒黒雲母トーナル岩,片状中粒白雲母黒雲母花崗閃緑岩). 3)気仙川花崗岩のすぐ東に分布する小林・高木(2000)の片状中粒白雲母黒雲母花崗閃緑岩.次に氷上花崗岩類の全岩化学組成を,日本列島の古生代前期の花崗岩類と比較する.約500MaのジルコンU-Pb年代の値が得られている花崗岩として阿武隈山地南部の日立変成岩類に伴う花崗岩類があげられる(Sakashima et al,2003;Tagiri et al,2011).南部北上山地からは大船渡市甫嶺付近のトーナル岩からジルコンU-Pb法で498±7Maの年代が得られている.(土谷ほか,本要旨集).450MaのジルコンU- Pb年代を示す花崗岩としては黒瀬川構造帯の花崗岩(小山内ほか,印刷中)などがある.これらの花崗岩を氷上花崗岩類の全岩化学組成の分析データと比較する.八代花崗岩は小山内ほか(印刷中),台花崗岩類は小林ほか(2000)のデータを使用した.全岩化学組成による主成分の比較からは450Maの年代を示す八代花崗岩と氷上崗岩類が同様の傾向を示すことが確認された.微量成分の比較からは500Maの年代を示すものと台花崗岩はRbが氷上花崗岩類に比べて低いことが確認できる.また,Srが胆沢川石英閃緑岩と台花崗岩は氷上花崗岩類よりも高い値を示す.希土類元素による氷上花崗岩類と八代花崗岩の比較では八代花崗岩の一部が氷上花崗岩体西側に分布する片状中粒白雲母黒雲母花崗閃緑岩と同じ傾向を示すことが確認できる.