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[SCG61-08] 三宅島産灰長石巨晶中に見出されたAl/Si無秩序配列を持つ灰長石結晶: Al/Si配列に与える不定比性の効果
キーワード:灰長石, Al/Si 秩序-無秩序配列, 灰長石巨晶, 構造不均質性
灰長石 (anorthite: CaAl2Si2O8) の結晶構造は、Megaw et al. (1962) により初めて決定され、堅固なアルミノケイ酸塩フレームワーク構造と、ケージ内に包摂されるカルシウムイオンとで特徴付けられる。純粋な灰長石(An100)においては、結晶構造中のAl・Siの数が等しいため、四面体席におけるAl/Siの秩序配列の結果、c軸長がカリ長石やアルバイトの約2倍の14Å前後になる。Al/Siが部分的に無秩序化した灰長石は高温から急冷を受けた結晶において観察されるが (e.g., Megaw 1974, Bruno et al. 1976)、これまでに、Al/Siが完全に無秩序化した灰長石の結晶構造は報告されておらず、アルミニウム排除則 (Al-avoidance rule: Loewenstein 1954) が成立する代表例とされてきた。しかし、高分解能NMRを用いた先行研究 (Philips et al. 1992)によると、三宅島産ソレアイト質玄武岩中に産する灰長石 (An97) には、Al/Si配列が無秩序化していることを示すブロードなピークが検出されており、少なくとも局所的には、結晶成長後に急冷を受けた火山岩中にAl/Si無秩序型灰長石が含まれていることが判明している。今回、三宅島産灰長石巨晶を詳細に分析した結果、Al/Si配列が無秩序化した結晶と、一部秩序化した結晶が共存している組織を発見したので、それらの波長分散型電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA-WDS)による定量分析結果、単結晶X線回折法による結晶構造解析結果、カソードルミネッセンス分光分析結果などを報告する。三宅島産灰長石巨晶の実体顕微鏡による観察から、ヘキ開面の発達した部分とガラス光沢を示す透明な部分を摘出し、回転対陰極X線源を備えた4軸型X線回折計 (Rigaku AFC-7R) で回折強度を測定した。結晶構造解析の結果、本研究で得られた灰長石の空間群はP-1で、c軸長は約7Åとなり、四面体席におけるAl/Siの配列が完全に無秩序化していることを示す。これは、アルミニウム排除則が成立しない灰長石が天然環境で生成したことを示す初めての例である。また、結晶構造解析に使用した結晶の化学組成をEPMA-WDSを用いて決定したところ、(Ca0.93Na0.03Mg0.01Fe0.02□0.01)(Al1.94Si2.06)O8という化学組成式が得られた。化学分析および端成分分解の結果、Al/Si配列が無秩序化した灰長石結晶は、エキストラフレームワークサイトに空孔を持ち、フレームワークサイトに過剰シリカ成分(□SiO2端成分にして0.8%)を固溶していることが判明した。これまでに報告されたAl/Si無秩序配列をもったM2+Si2Al2O8結晶としては、Lunar anorthite ((Ca0.94Na0.03□0.03)(Al1.94Si2.06)O8; S.G., P-1, c≃14Å) (Smyth, 1986)、Sr-anorthite (Sr0.84Na0.03□0.13Al1.69Si2.29O8; S.G., C2/m, c≃7Å) (Grundy and Ito, 1974)、Eu-anorthite (Eu0.96□0.04Al1.92Si2.08O8; S.G., C2/m, c≃7Å) (Kimata, 1988) などがある。これらAl/Si無秩序型結晶の共通点は、化学組成がSi-rich (Si>2.0)で、エキストラフレームワークサイトに空孔をもつ不定比性(nonstoichiometric)にある。今回発見されたAl/Si配列が無秩序化した天然灰長石においては、こうした不定比性によってアルミノケイ酸塩フレームワークおよび反位相境界(anti-phase-boundary)にSi-O-Si結合が導入された結果、結晶構造が安定化し、Al/Siの無秩序な配列が保存されていると考えられる。